第十六節「大陸前暦十年の風 − 詰符 −」

静寂の空間の中…

「どちらだと思う?」
目の前には二つの願丈そうな鉄の大扉が 侵入者をかたく拒むかのように立ちふさがっていた
七米四方の広い部屋の中には 冷たく陰氣な雰囲氣に混じり まだ新しい血の生臭い匂いが充満している

その原因は二つの扉とはちょうど反対側の壁に開け放された扉 その側に倒れているついさっきまでは妖獣 翁獅子蠍マンティコアと呼ばれていた肉塊 今は血の海に沈むそれに背中の山羊の首と蠍の尾はついていない
そこから少し離れた左の壁に二ヶ所 べちゃり と血がぬめりついた所があり その床にはそれぞれ山羊と 蠍の半身が斬り飛ばされ転がっていた 胴体にも半分からちぎれそうなほどに深い傷がはしっている

完全に即死の状態
今ごろは妖獣はあの世で自分が襲いかかった相手に 後悔をしていることだろう
かっ と見開かれた獅子の頭の瞳には  しかして すでに扉の前で立ち止まる 二人の男の姿は映ってはいなかった
二つの扉を見比べ 右手に抜き身のファルシオンを下げたまま アルジオスは右横に視線をむける
もう一人の男 返り血で所々に赤い斑点模様をつくった純白の鎧を纏った騎士サンソレオも扉を見つめ しばし思案の様子を見せる

「私にもわからん が 右に行ってみるか」
「よし」
扉を開くためアルジオスは ノブに手をかけようとする が 触れる直前でそれを躊躇い動きを止めた
「やはり 罠が氣になるな」
サンソレオの呟きは アルジオスの心の不安をそのまま代弁していた

「先ほどのようにノブに触れたら 毒針が飛び出る程度のものならよいがもし もっと凶悪なものなら…」
ひとつ 大きくため息をつく
「こんな時こそ 兄者の器用さが必要であったのだが…」
「今更 そんなことを言っても始まらないぜ サンソレオ どっちにしろ 進むしかないのさ はぐれた奴らとはいつか会えるさ」
覚悟を決めアルジオスはノブを掴んだ 何も起こらないが まだ罠がないと待ったわけではなかった 音がしないように ゆっくり とノブを慎重に回してみる

「鍵は かかっていないようだな」
呟いてノブから手をはなしたアルジオスにサンソレオは訝しげな顔をするそれに応えるかわりにアルジオスは 扉を見据えたまま短く言い放った
「蹴り開ける」
言うが早いか 鉄製の大扉に向かって アルジオスは力いっぱいの蹴りをたたき込んだ

大きなきしむ音をたてて扉が 隣の部屋への入口を開ける 真っ暗だった
その部屋には明りがいままでの部屋の様に 壁に松明が掲げられていない
背後のたいまつの明りが闇の部屋に差込み 扉の輪郭と二人の影を前方に造りだしている
明りの届かないそこ以外は広さすら掴めないが アルジオスは面白そうに笑みを浮かべ 闇の奥へと視線を向けている

妖獣の死体の転がる部屋から明り用に たいまつを一本とってきた
サンソレオがそれを左手でかざして 闇の部屋へと一歩づつ歩き出した
少しづつ明りが闇をはらっていくにしたがい 部屋の様子も把握できてきた
広さは四方とも十米ぐらいで 部屋の横壁には並ぶ様に 二米以上の姑獲鳥の彫像が何体も置かれている 
照らし出すたいまつの赤い光が揺らめくたび 不氣味に表情を変えまるで生きている様にすら見える

「邪神の下僕妖怪どもが…!」
姑獲鳥の彫像に目を向け サンソレオはいまいましげな表情を浮かべる
「どうやら当たりだったようだ…」
低く押し殺した声が サンソレオの背後から響く振り返った
サンソレオの目に左手で ファルシオンを頭上に差し上げた
アルジオスの姿が映るその雰囲氣で サンソレオはアルジオスの言いたいことを悟った

「この部屋には いる…」
緑色の冷たい殺意を瞳に浮かべ アルジオスは再び呟く
サンソレオは視線を前方の闇に戻し 右手の聖剣を青眼に構えた

ヒュン…
微かに空を斬る音 同時にアルジオスが上にかかげた剣を閃かせる
たいまつの明りを反射して 鈍く輝く剣が銀色の光の筋を描いた

ボトッ
床に転がったのは 肘から先の緑色のどろどろした液体を刃に塗り付けた曲刀を持った人間の右腕だった
同時にアルジオス達が入ってきた扉を背にして黒い装束で全身をくまなく覆った格好の男が 音もなく降り立った
右腕から先はなく絶え間なく血が流れ落ちているが 男の瞳には苦痛の表情ひとつ見えず ただ冷たい殺意だけが宿っている
腕を飛ばされたりすれば 通常ならショックで氣を失うか 少なくとも耐え難い激痛に襲われるはずだがこの男はまるで痛みを感じていないようにみえる

「麻薬か何かで痛みを消しているのか」
剣で軽く空をなぎ払い 刃についた血を飛ばすと アルジオスはそれを トン と肩においた
構えこそ無防備に見えるが すでに全身は冷たい炎氣に覆われている眼前の黒装束の男は声一つたてずに
アルジオスを見つめたまま無言を保っている
「部屋の中にあと六人いる アルジオス 精氣配がわかるか?」
サンソレオは青眼にかざした聖剣を微動だにさせず 背中合わせの状態でアルジオスとは反対の暗闇を凝視していた

「精氣配は全部とらえたが 一人だけ位置の掴めん奴がいる」
しかして その声に動揺や不安はまったく伺えない
右腕を落とされた装束の男がすり足でゆっくりと移動する様を アルジオスは灯や矢かな眼差しで追った
その左手が背中に回され何かを掴む様も 左手の松明からサンソレオは手を離した 光と闇の空間が大きく揺らぐ瞬間
その男が跳躍し 同時に残り六つの氣配も 闇の中で俊動する

『乙晄域!!』
天に突き出したサンソレオの左の手の平が 星霊殿破魔法に応じ まばゆいばかりの光を爆発させた
強烈な閃光が闇の空間を裂いて 部屋全体を照らし出し一瞬 六人の黒装束の姿を闇の中にはっきりと浮かび上がらせた
闇になれていた暗殺者達の目を閃熱が焼く 視界を奪われてひるんだその数瞬が しかして 致命的となった者もいた

六人の位置を一瞬のうちに把握したサンソレオが間合いをつめる暗殺者達が
何とか視力を取り戻した時には サンソレオはすぐ眼前まで迫っていた
白い刃をひらめかせ男達が体勢を整える間に二人を切り倒す
同時にアルジオスも閃光の瞬間 床を蹴って男に駆け寄っていた
サンソレオを背に立っていたアルジオスは 光を見ずにすんでいたが 右腕を飛ばされた男はまともに視界を奪われていた

シュヴァッ!!
男の左手が背中に隠された小剣を完全に引き抜く前に銀閃が男の右わき腹から左肩へとかけ上がる
刹那の間をおき その軌跡から鮮血がほとばしった
…!
血溜りで足を滑らせたのか アルジオスの身体が ふっ と沈み込んだ
すれすれで一瞬前まで頭があった空間を一筋の光が貫き黒装束の男の身体に突き刺さる
アルジオスの頬をひきつる様な感覚がはしる

「ちっ…!」
それは細めの短槍だった
槍はアルジオスに切り捨てられた男の背中まで貫通し その勢いで身体は後方に弾き飛ばされる
同時に突然降ってきたザワッとした頭上の不吉な氣配に アルジオスは立ち上がるより早く剣をかざしていた
ガギィッ!
金属音が響き剣と斧が激突する
だが 不安定な体勢に加速のついた斧の勢いは完全に止められなかった
アルジオスの剣がぶれた隙を狙って 斧を持った手とは反対の左手がアルジオスに向かって突き出される
その左手に光るものを アルジオスは見て取った

『乙風旋!』
アルジオスに左手が触れる寸前 黒装束の男の身体が弾き飛ばされる サンソレオが風弾を放ったのだった
ゴヴッ!!
すさまじい勢いの衝撃に 身体は壁にたたきつけられ壁面がきしむ音と共に 大きく陥没し その間にアルジオスは立ち上がり 体勢を取り戻した
氣弾の衝撃で男の身体は大きく壁にめり込み ぴくり とも動かない その男に一瞥をくれるとアルジオスは自分の右頬に触れて見た ぬめっ とする暖かい感触が指先に伝わってくる
背後ではサンソレオが三人目の敵を ちょうど袈裟に切り下ろしていた所だった

ガラッ…
壁の崩れる音
視線を向けたアルジオスの目にめり込んだ壁から身体を起こそうとする黒装束の男の姿が映った
「タフなヤツだ あの氣弾を食らって立ち上がるなんて」
指先のなま暖かい血を ペロリ となめアルジオスは男へと向き直った
先ほどの氣配は掴めるが 唯一位置が特定出来なかった男がこいつであることは さっき剣を交えた瞬間にわかった こいつが六人の中で一番強いということが

その男はたたきつけられた衝撃でフードが外れ 顔が露になっていた 白い髪に白い瞳で雰囲氣はリフィラムに近い 右手には刃が超肉厚の とてつもなく重そうな大斧を下げている
そして アルジオスの見た左手の光るものは 五本の鋭い爪だった 鈍い黒蒼の色をした爪が 不氣味に明りを反射している
男は感情の殆どこもっていない声で言った

「我が名は 降魔神軍 近衛隊士 ラヴェンスク」
「なるほど リフィラムの部下ってことか」
アルジオスの隣に 残りを全員切り伏せたサンソレオが並んだ
ラヴェンスクは大斧を軽がると構えると そのまま微動だにしなくなる まるで 周囲の空間が凍り付いてしまったかの様だが 強烈な殺氣は確かに アルジオスとサンソレオに向けられている
ぴりり と肌に感じる程の殺氣を受け 二人はそれぞれ武器を構えた

互いに待っているのだ 相手が動くのを
凍てついた大氣がぎしぎしと音を立てているのが 聞こえるのではないかと思うほど鋭く そして 静かだった
ゴォォ…
どこか遠くで爆音が轟く
刹那 三人は動いた

「おーほっほっほっほっ! 私の前に立ちふさがる者は みぃぃぃぃんな 打ち倒してあ げ る」
目の前の大扉から なだれ込んで来た軍団に向かい 大きな広間に反響せんばかりの高笑いが響く
『爆裂炎球衝!』
呪力が一氣に解放され 手の平から放たれた 紅蓮の爆炎が軍団を包み込む
高熱にまかれ幾多もの苦しみの叫喚が上がる
何とか炎にさらされながらも辛うじて精言霊に耐えたもの達は その術者に向かって 一斉に突撃を仕掛けていた

「アンタ達 身のほどを知りなさい! 雑魚のくせに 私に向かってこようなんて三百万年早いのよっ!」
と バスタードを手に疾りては 眼前の敵を瞬きする間に切り倒し その度に白刃をきらめかせる
金属音と一緒に 肉を裂く不氣味な音が部屋のいたるところに踊る
剣が駆け抜けた後には 全身をいくつかの肉片に分けられた 哀れな犠牲者だったものが赤い奔流と共に 次々と床にまき散らされていく
「さァ 死にたいヤツは どんどんかかってらっしゃい!」
鮮血に染まる剣を高々と差し上げ 宣言する様に勝ち誇った高笑いを上げる 
傀伸(きしん)のごとき強さと迫力に かろうじて餌食とならずに助かったもの達は
恐怖にも似た感情を抱き 遠巻きにして彼女を囲んでいた

「オーッホッホッホ…は いけないいけない 確か私はこんな性格じゃなかったはずよ」
ふと我に返ったのか ぴたりと高笑いが止まる
「じゅーぶん それが地の様な氣がしますけど」
「黙らっしゃいドレイラ あんたも人の事を言えないでしょうが!」
こちらの方が組やすしとみたのか
壁ぎわで戦いの様子を傍観していたドレイラに向かって 一体の妖山羊 が空中から飛びかかる

「私は違い…『乙烈光弾!』」
短く呪文を唱え妖山羊の姿すら見ずに杖だけをそちらに突き出す
放たれた光弾が眉間を撃ち貫き そのまま妖怪は床に倒れ伏した
「…ますよ」
「どうだか 少なくとも他人の目にはどう映っているのかしら ねっ!」
会話をする間にも片手間に剣を振るい 数を次々と減らしていく
避けない血しぶきが外套の所々へ顔へと散る それが一段と凄惨で しかしてて艶っぽい印象すら与えていた

「…えぇい ちまちまと面倒くさい! 一氣にかたずけてやるっ!」
言うが早いか氣を身体の中の一点に集中させ凝縮する 剣の動きが止まったのを見ここぞとばかりに 妖怪達が四方から一斉に飛びかかる
『焦土焔硝域!!』
彼女を中心に爆発した衝撃波にうたれ 妖怪達は次々と吹き飛ぶ
最初に炎の洗礼を受けていたので ほとんどの妖怪は弾き飛ばされたまま 起き上がってはこなかった

「あー すっきりした」
広間の中心で満足げな表情を浮かべている彼女を
部屋の端まで弾き飛ばされた一人のボロボロの状態の闇妖狐が
驚愕に目を見開いて見つめていた
「…な何なんだ あいつはまるで破壊の魔女…」
ゴツン
「…」
くるっと振り返って 彼女は首をかしげる
しかしてて 視線の先には壁ぞいで杖を下げて立っているドレイラと その側に妖山羊や闇妖狐の死体がいくつかあるのみ
「ん? 何か言ったドレイラ?」
「いえ別に 何も氣のせいじゃないですか」
「そう じゃ 次の部屋にいきましょうか」
何もなかった様に軽い口調で彼女はそう言った

「えーん みんなとはぐれちゃったよぉ…」
弱々しいたいまつの明りが ぽつりぽつり と等間隔で 壁の両わきに掲げているだけの薄暗い通路を
杖に淡い破魔法の明りを灯し ウォーラは一人で歩いていた

ここは魔王の居城ナムクサンダラの内部
数時間前に全員で乗り込んで来たのだが 門をくぐり大聖堂らしい巨大な空間に足を踏み入れた瞬間
床が突如輝きを発しはじめ 全員が淡い光に包まれ視界が覆われたかと思うと
次の瞬間にウォーラは ぽつん と一人で回廊のど真中に立っていたのだ

たしか 最後に部屋に踏み込もうとしていた
フラッシュ=バックが後ろで『強転の間かっ!』って 叫んでいたっけ…
それだけは覚えているのだが それ以外はさっぱり何がどうなったのかわからない
もしかするとみんなも 自分と同じ様にどこかにばらばらで跳ばされたのだろうか
それとも 私一人だけ…?
そう考えると背筋がうろ寒くなってくる 敵の しかも魔王の本拠地でたった一人! 
その場から動かず にかなりの時間誰かこないか待っていたのだ が とうとう諦めた ともかく誰か見つけなければならない

「みんな一体 どこにいるのかしら…」
無限とも思えるほど続く 前方の深い闇を凝視し恐る恐る歩を進めていく
角がある度に おびえながら その先をのぞき込み 何もないのを確認するとちょっと安心してまた進んでいく
そうしてどのくらいの時間を費やしただろうか 左右に分かれていてる通算で十数個目の角の左を 恐る恐るのぞき込んだ時のことだった

いきなり視界に入ってきたのは ぬっ と突き出された手だった
あっ と叫ぶ間もなく口を塞がれ ぐいっ と強い力で角の向こうに引っ張り出され 取り落とした杖が カラン と床に転がった
「んんんー…!」
口を手で抑えられ声が出せない上に もう片方の手で素早く両手首を捕まれ壁に押しつけられる 一瞬にしてウォーラは身動きを封じられていた
懸命にあがらおうとするが 手首を掴んでいる力は強く 妖兔の力ごときではどうしようもなかった
これ以上騒いでも無駄だと悟り ウォーラは目の前の人物の姿へ目をやった

「氣はすんだかい? 妖兔のお嬢ちゃんよ」
むさい…
それが目の前の男に対するウォーラの第一印象だった
三十代半ばで巨漢で筋肉ダルマで髭面 男は睨みつけるウォーラの刺々しい視線など氣にもせずに言葉を続ける
「姿よりも先に明りが見えてしまっちゃ こんな風に相手から不意撃ちを食らうんだよ」
ウォーラはただ ぶすっとした表情で 男をにらむ事しかできなかった

「おぉ 怖い かわいいコがそんなに人をにらむモンじゃない」
男はそんな表情すら楽しいのか にやにや とした笑みを浮かべ
ウォーラの姿に上から下まで 無遠慮にじろじろと視線を這わせる
一瞬ウォーラは背筋に ぞっ としたものが駆け抜けるのを感じた
「この娘どうします? ドーグレッグ様」
面白いのか嬉しいのかともかく 喜々とした笑みを浮かべたまま男は後ろを振り返って言った

「陛下を倒しに来た 必剋将軍達が先ほど『強制転移』の間に踏み込んで 作動させたらしい おそらくその中の一人だろう あまり大した腕には見えないが 放っておくわけにはいくまい」
大柄な男の陰に隠れ まったく姿は見えないが どうやら後ろにもう一人いるらしい
低い青年のさして興味もなさそうな声が 男の背中から聞こえた
「と 言いますと?」
答えは解っているはずなのに男はあえて尋ねる

「始末しておけ 私は陛下に呼ばれ これから謁見の間へ行かなくてはならん 貴様に任せる」
バサッ と羽織を翻す音が聞こえると 男の背後から現れた声の主はウォーラが来た方角ではなくそのまままっすぐと歩いて去って行く
目だけを動かして青年を追うが 灰色の外套を纏ったその後ろ姿しかウォーラには見ることが出来なかった
「さぁてと…」
男が視線をウォーラへと戻す 口を塞いでいた手をどけると 男は腰にさした匕首をゆっくり引き抜いた
刃を持ち上げそれを すうっ とウォーラの首元に寄せる
ウォーラは匕首の冷たい刃に 視線をすい寄せられていた 頬がひきつり恐怖のあまりに声を失う

「始末しろとのことだ 悪く思うなよな お嬢ちゃん だが その前に…」
白いうなじがへこむほどに突きつけられた匕首の切っ先が ふっ と外れる 男はそれをウォーラの眼前にもっていき 刃を外套の襟元に置く
「ち ちょっと…!」
男の意図を悟り ウォーラは慌てた 匕首を滑らせて男は外套を ゆっくり と襟元から縦に裂き始めた

「何すんのよ この変態!」
腕を抑えられた不安定な状態からも 身体を捻って男に向かって蹴りを放つ しかして 勢いがなく 男にあっさりとかわされてしまった
「ただ殺すんじゃもったいないだろ? こんなかわいい女をほっとく手はないぜ」

「離して 離してよ! このスケベ親父 鬼畜 ミラン野郎!」
ウォーラの罵倒にも しかして男はいっさい耳を貸さない
そうしている間にも刃は胸の隆起のし始め辺りまで 白い肌を露にさらしていた
「こン畜生!」
再びウォーラの右足の蹴りが孤を描く

「無駄なことを」
身体を開いて男はそれを軽がると避けるが ウォーラの狙いはそれだった
かわされて孤を描いた右足を そのまま返すように今度は下へと蹴り下ろしたのだ
ふくらはぎの辺りで完全に不意をついた男の右足首を 見事に捕らえる
いきなり足を払われ 男はバランスを崩し右後方へと倒れ込んだ

ウォーラの両手首を掴んだまま 倒れ込む勢いを利用し右腕を曲げウォーラは男のみぞおちにまま肘打ちをたたき込む
「ぐげっ!!」
見事に決まった男の口から潰れた声がもれ 同時に手首を掴む力が緩むそ
機を逃さずウォーラは男の手をふりほどき 急いで回廊の奥ドーグレッグ達が来た方へと向かってかけだした
「ま 待ちやがれ…」
苦しげな声をあげて よろよろ と男も立ち上がりウォーラの後を追う

回廊を走り幾つか角を曲がって 
ウォーラは最初に目についた手近な扉を開け その中に飛び込んだ
その扉が超分厚い鉄製で しかも異常なくらいに大きかったことなど氣にもせずに

ブォン…!

突然の空を切る音に ウォーラは反射的にその場に臥せた
しかして一瞬 遅れてウォーラを追って部屋に飛び込んだ男には
それをかわす暇はなかった ウォーラの頭上で白刃が孤を描く

ブジュッ!
力任せに肉の引きちぎられる音とともに 男の身体が二つに裂ける
上半身はそのままの勢いで吹き飛ばされ 鮮血を散らしながら宙を舞った男には
一瞬の出来事のあまり 自分に何が起こったのかすら理解出来なかっただろう
床に転がる男の上半身 突然の出来事に瞳はただ大きく見開かれていた

ウォーラは慌てて立ち上がると 警戒しながら目の前に立ち塞がる超巨大なそれをまるで空でも見上げるように振り仰いだ
「た、単眼傀」
呟きと共にその額に冷汗が浮かぶ
目の前にいたのは身の丈 十米近い角傀族(ゴズ)だったのだ
ウォーラの眼前に山の様に巨大にそびえる褐色のそれには 目が一つしかついていなかった
頭頂部は角の様に尖っていて 髪の毛らしきものはない
殆ど裸に近くわずかに腰布の様なものをまいている程度だ がっしりとした体躯には威風すら感じさせる

ウォーラの胴まわりの数倍はあろう 右の豪腕には 男の胴体を軽く二分割にちぎった巨大なハルバードが握られている
それですらウォーラの四倍以上の大きさだ
赤い単眼が無表情にウォーラを見おろしている ウォーラの全身は恐怖と緊張のせいで 冷汗をびっしょりかいていた
自分の身体が凍えるように冷たく感じる 体温を奪われたかの様に肌は青ざめていた

「さすが魔王の居城…は はは 出てくる敵も並じゃない…」
笑い声すらかすれている
全身が ガタガタ と震えるのを辛うじて抑えるのが精一杯だった
「ガアァァァ!!」
咆哮を挙げて単眼傀サイクロプスがハルバードを振るう

「きゃああああっ!」
半ば転がるようにして横に跳びずさる
何とかハルバード自体は避けれたものの すさまじいばかりの風圧を背中に受けウォーラの身体はさらに転がり 部屋の角にぶつかって止まった
ウォーラがいた背後の石壁に衝突したハルバードを 単眼巨傀は力まかせに振り抜き轟音をたてて壁面が大きくえぐりとられ 岩となって砕ける

ちらっ とその跡に目を向け ウォーラは改めて恐怖を感じた
壁ですら破壊するあの一撃を食らおうものなら 妖兔の細い身体など肉片となってちぎれ飛ぶだろう
単眼巨傀は部屋の隅のウォーラを見て 床を轟かせながら近寄る

「…」
恐怖で足がすくんだのか ウォーラは顔をうつむかせたまま動かない
長く伸ばされた淡い色の金髪が 一瞬だけざわっとざわめいた
「…このままじゃちょっとヤバいわよね」
全身の小刻みの震えは止まっていた 顔を上げ単眼巨傀を見上げた
その瞳にはまるで別人の様に強い意志の光が宿っている 突如として恐怖の感情が消えてしまったかのようだ

ハルバードがうなりを上げる寸前 ウォーラは床を蹴って大きく跳躍していた 壁と同様床にも大きな陥没が生じる
跳躍と同時に詠唱を始めていたウォーラは背後に回り込み単眼巨傀が振り返るよりも早く詠唱を完成させた
『大氣を司りし嵐が王の御名に於いて是を奏でる すべてを引き裂く閃鋭なる天竜の牙よ 我が元にその力を示せ』
振り向きざまにハルバードが低いうなりを上げる
『嵐竜鋭空斬!』

キュィン!
眼前の空間が甲高い音をたててきしむ
振り上げる右腕の軌跡上の大氣が大きく歪み 鋭い不可視の刃が超高速で放たれた!
ザウッ…!
単眼巨傀の動きが止まる 背後の壁が一米以上に渡り見えない鎌風の威力を示すかのごとく衝撃と共に大きくその跡を穿つ

静寂の時
そして右わき腹から左の肩口 ハルバードをかざした右腕の二の腕 左腕の手首 そしてハルバードの柄にすーっと筋が疾る
次の瞬間 十米以上もある巨木のような体躯が その筋を境にしてまるで小枝でも裂くかのごとく あっさりと複数の肉塊と化す
ハルバードが転がる音が二つ 妙に甲高く部屋中に響いた
怒涛の量の赤い奔流は あっという間に床に血の池を創り出した

「ふぅ…」
ウォーラは髪をかき上げながら 大きくため息をついた
広がる血の波が足元にまで寄り 革靴を赤く染める
改めて周囲を見渡すと部屋の大きさは 一角が三十米以上もあるほどの巨大さで 天井も 単眼巨傀でも十分過ぎるほどの高さを有していることがわかる
扉は入ってきた所と別に二つ 右奥の壁と左奥の壁についていた
ぬるっ とするその中を 足を滑らせないように注意しながら歩いてゆく

「うーん どっちかなぁ…」
きょろきょろ と二つを見比べ ウォーラは少しばかり小首を傾げる
どちらとも鉄製で入ってきた扉ほど大きくはない
「ど ち ら に し よ お か な……」
人差指で扉を交互に指さしながら なにやら ぶつぶつと呟き始める が 暫くして その指が ぴたり と右を指して止まった

「よし こっち」
タタタと右の扉まで走っていくと 扉のノブに手をかける
「ありゃ? 鍵がかかっている」
ガチャガチャ と動かしてみる ノブは固く回らない さらに ガチャガチャガチャ と乱暴に動かすが 無駄だった
もう一回試してみるが やっぱり扉は開かなかった

「こうなったら『開錠』の古代語魔法で…て あ 発動体は落としてきちゃったんだっけ!」
さっき杖を落としてきてしまったことに氣付き ウォーラは困った様に頭を掻いた
「うーん仕様がない こっちは諦めましょ」

独りごちたその時だった
突如 扉が閃光を発した

「また扉か…」
ハイネストが低く呟く その口調には ややうんざりした様な響きが込められていた
回廊の突き当りにあったのは いままで何度ともなく見てきた同じような鉄製の扉だった
小さな嘆息をもらして扉の前に立つ と
その表情が ピクッ と動いた
瞳が糸を引いたようにすっと細く狭まり 自然と身体が反応していた
向こうに何かいる
ハイネストは扉の向こうにいる 何かの氣配を鋭敏に感じ取った
一つか…

すぐに次の動作へと移れるよう 自然体に身構え
氣配をたよりに 扉の向こうの相手との間合いをはかる
そして扉に向かって 地呑獅刀を一閃!
金属どうしの激突する音はしなかった 地呑獅刀が命中するや否 扉は閃光を発した
(疾る!)
一瞬にして間合いをつめると 振るった地呑獅刀を扉を消滅させた刃で 返しざま相手に向かって跳ね上げる

「ひっ!!」
短い悲鳴
ハイネストが首筋ぎりぎりに地呑獅刀を突きつけたのは ウォーラだった
「ああ…」
首筋まで迫る破壊の剣を ウォーラは恐怖をたたえた眼差しで凝視する
触れられれば消滅は免れないのだから 息すらせずに凍り付いた様に固まっている
ふっ と表情を崩してハイネストは地呑獅刀を下ろした

「ウォーラか…他の連中は一緒じゃないのか?」
「ううん」
「て ことはやはりみんなばらばらに跳ばされたらしいな」
呟いたハイネストは ふと 珍しくとまどった表情を浮かべ ウォーラから視線をそらした
「?」
不思議そうな顔をするウォーラ ハイネストは黒い自分の羽織を外すと それをウォーラに向かって放り投げた

「それでも纏っておけ」
その時になって初めてウォーラは自分の今の格好を思いだした
自分の胸元を見おろし さあっと頬を朱に染める
「きゃっ!!」
慌てて受け取った羽織を羽織って胸元を隠す
ハイネストはその間ウォーラの方を見ない様に 周囲の様子に視線を泳がせていた
「しかし よっぽど運がよかったようだな どうやらこの城ではとんでもない化物を 何匹も飼っているらしいからな」

ハイネストは『強制転移』の門で跳ばされてから 今までに切り捨ててきた中級妖怪や 巨傀などの姿を思いおこし
そして 視線を泳がせたまま 少し不満げに
それでいて不思議そうな口調で ウォーラに話し掛ける
「戦いでは何が起こるかは 予測がつかないもの
今回の様なこともその一つだ いつも仲間が守ってくれるとは限らない
自分の命を自分で守るだけの力のない者は 戦いでは生き残れない
というのが私が剣闘士や 将軍として戦ううちに学んだ考えだ
仲間の力はあくまでプラスアルファでしかない
あんたたち冒鋒者というものがどうかは知らないが
戦いをなりわいとしている者にとってこれは真理だと思える
だから 私はリチャードの力を考え この戦いには荷が重いと連れて来なかった
だが 出会ってからずっと見てきたが あんたの実力はサデイ達は言うに及ばず リチャードよりも下だ
本当なら自分の身を十分自分で守れない者を 私は連れてきたくはなかった
部下じゃないあんたに強制はできないから来るなとは言わなかったが 何故だ?
どうして命を捨てる様なことをする…」

「え あの…」
「まぁ それほど強いもの達には 会わなかったから か…」
ウォーラが羽織を羽織った頃を見計らって視線を戻そうとした ハイネストの言葉がそこで途切れる
ハイネストの視界に胴体を切り飛ばされた人間の下半身が 左壁の開け放たれた扉の側に倒れている様が映った少し離れた所には男の上半身が

そして何よりもハイネストを驚愕させたのは
どす黒い血の池に沈む鋭い切口で いくつもに切断された巨傀だった物の肉塊だった
「単眼巨傀か…?」
転がっている頭部とその巨大な体躯から ハイネストにはそれがどんな妖怪だったか理解できた そして その恐ろしさも
ハイネストはウォーラと単眼巨傀の死体を 唖然とした表情で何度か見比べた さすがに目の前の事実をすぐには信じられなかった

「えっと…あはははは…」
言葉に詰まり ウォーラは困った様な照れ笑いを浮かべただけだった
「フ…」
苦笑を浮かべハイネストはウォーラに言った
「そうか…なら さっき言ったことは 忘れてくれ」
そして 残りの扉 ハイネストの入ってきた扉の先にある
閉ざされた鉄扉に向かって歩き出した
「行こう 他の連中を探さなければ」

重々しくきしむ音を立てて 扉が開かれた
「…」
ランド=ローは閉じていた瞼をふっと開けた
眼前には 部屋に近い幅の広さを備えた 回廊というよりも 広間が広がっており 数十歩先で左右へと曲がっている
その両の壁沿いには何かが置いてあったと思われる台座が 幾つも列を連ねているが 今は何も置かれてはいない
もたれかかっていた石壁から背を離し ランド=ローは腕組みを解いた
しんと 静まり返った空間に かすかに音がする二つの足音
それが次第に近づいているほどなく 左の角から二人 姿を現す

「氣配を殺しているから もしかしてたらと思ったけど やっぱりランド=ローだったの」
「どうしたんですか そんなところで?」
サディとドレイラだった
「…」
広間を歩いて来る二人に 沈黙のままランド=ローは肩ごしに後ろの壁を指さした
壁には不氣味な細工の施された二つの荘厳な鉄扉
ランド=ローはその合間の壁に寄りかかり 他の仲間の到着を待っていたのだ

「貴方は結構 楽してきたみたいね」
ランド=ローの装束はそれほど汚れてはいないのか 返り血の類も殆どといっていいほど浴びていない
そう言うサディの方は反対に 外套やら羽織やら全身をどっぷりと返り血で染め上げ
右手に下げたバスタードの刃には まだ酸化していないごく新しい鮮やかな朱色を とどめた血糊がついているほんの一つ二つ前の角で 戦いをしてきたばかりなのだろう
ドレイラの方はそれほどではないが それでも外套の裾の数ヶ所は戦いの中で破れている

城に入った時ととりたてて変わっている事と言えば サディが今は金属鎧を身につけていないということぐらいだった
おそらく身振りの複雑な破魔法を使う為にどこかに置いてきたのだろう

「それで」
サディは二つの扉に視線を向けた
右の扉は今までに城の中で見たどの扉よりも大きく そして重厚な雰囲氣を漂わせている 

両開きの構造になっており 扉の枠組みを飾る石柱は 口を開け悶える二匹の妖山羊の形に刻まれている
扉の向こう側に殺氣や氣配は感じないが この扉がどこに通じているかはわかる氣がした
すなわち 魔王の謁見の間      
だからこそランド=ローも ここで他の連中が来るのを待っていたのだ
そしてサディは左の扉へと視線を移した

!!
瞬間 背筋がざわめくのを感じた
すさまじく強い殺氣それが扉ごしにサディを居抜いたのだ
肌に刺すようにぴりぴりと感じるほどのその殺氣は しかして 一瞬だけだった
その後は何も氣配さえ 扉の向こうからは感じない
この殺氣…間違いないリフィラムだ…
大きさは右ほどではなく ごく一般的なサイズの鉄の扉だ 不氣味な細工も他と比べると抑えた印象すらうけるそれだけに何か底知れぬ得体の知れない感じがする扉だった
と 背後の通路の方から いくつの金属鎧の擦れる音が近づいてきた

「おお やっと見つけた」
右の通路からまずサンソレオが ついで その後からアルジオスが現れる
サンソレオの純白の鎧も アルジオスの金属鎧も浴びた返り血はどす黒く変色している
二人ともかなりの敵と戦ってきたのか 羽織はぼろぼろに裂け 金属の鎧でさえ 所々大きくへこんだ部分がある
さすがにサンソレオがいるだけはあり 傷の方は直っているようだが

「随分 派手にやってきたのねぇ」
サディが感嘆とも呆れともつかない声を上げる
「まぁな ちょっと手ごわいヤツとやりあったんでな おかげでこの有様さ」
アルジオスは左手に掴んでいた剣を差し出す
刃に黒い血のこびりついたファルシオンは 刀身が途中から折れて刃先がなくなっていた
「剣が使いものにならなくなっちまった」
折れた剣を見下ろすと アルジオスはそれを放り投げた

「ま 頼りないがこれで我慢してるとこだ」
かわりに左腰に差した予備の小剣を引き抜いた その小剣の刃にもすでに血曇りが宿っている
「そういうサディも かなり豪快にやってきたようだが?」
サディの姿に目を向けサンソレオが言う
「そう? そんなことはないけど」
「それは あんたの尺度での話だろ」
苦笑いを浮かべてアルジオスが呟いた
サンソレオも僅かに笑みを浮かべていたが サディ達の背後の右扉に視線がいくと同時に その笑みも消える

「それはいいんだが ハイネスト達はまだなのか?」
サンソレオも その扉が最後の扉だということを悟っていた
降魔神軍との長きに渡る戦いに終止符を打つ最終決戦の舞台へと続く扉 この向こうに魔王がいる
「兄者やラトゥヌムゥも まだ来ていないようだし」
「私なら ここに」
横合から透明間のある声 声のした方向を振り返ると
いつからそこにいたのか ラトゥヌムゥが台座の一つに腰掛けていた
その姿は城に入った時と何一つ変わっていないために まったく戦ったという氣配はうかがえない

「ならば あとはハイネストとフラッシュ=バック そして…」
呟くドレイラの声は低い
「ウォーラか…」
サンソレオが言葉を継いだ
ハイネスト達 無論サンソレオもこれまでの戦いから ウォーラの力は十分すぎるほど知っている それだけに不安なのだ
「あの娘 生きてるかな…」
城の中で遭遇した敵の種類と強さをみんなそれぞれ頭に思いおこし そして
はーっ と重いため息をついた

大体 C霊級の妖怪がほとんどで たまに B霊級が出現した程度だ
そこいらの傭兵達にとっては かなり辛い相手だろうが
現時代において大陸で最強の実力を備えた この徒党の面々ならば
多少傷を負うことはあっても リフィラムの様な超化物を除けば 絶対に負けるということはない
しかして ウォーラは違う
C霊級の妖怪でも 一人ならばかなりキツい相手となるだろうし まして 上位の腐蝕騎士や巨傀種ともなれば…

「大丈夫…と思うけど あのコ結構しぶといから それにハイネストか フラッシュ=バックが一緒かもしれないし」
「そうだな とにかくハイネストとフラッシュ=バックが来なきゃどうしようもない ウォーラの事も魔王との決戦も…」
大扉に一瞥をくれてから アルジオスは手近にあった台座に片膝を立てて座った
その上で腕組みをしてから顔を埋め 視線だけを通路の方角に向ける
「待つしかないだろう」

「じゃあ ハイネスト達が来るまでまだ時間がありそうだから 私 先に用事をすませてくるわ」
何を思ったのかサディが突然そう言って 左の鉄扉の前に立った
「用事?」
尋ねるサンソレオに サディは肩ごしに振り返って軽い調子で応えた
「ん ちょっとね そんなに時間はかからないと思う」
それだけ言うと 重々しい音を立てて分厚い扉を開く
「あんまり変なことをしないでくださいよ」
背後のドレイラの言葉には返事を返さず一人でその中に入ると サディは再び重い扉を閉ざした

そこは半径が十米程度の円形の部屋だった 扉は入ってきた一ヶ所しかない
壁の同じ高さの所に無数掲げられているたいまつが部屋中を十分に照らし出していた
「さて 能書はなしでいきましょうか」
バスタードをかざし サディは数歩先にたたずむ男−−
リフィラムに向かってそう言った

サディが左の扉の向こうに 姿を消してから暫くの後

「さて…」
背に追った楯を外し サンソレオがそれを左手に構えた
「どうやら ようやく本格的な歓迎をしてくれるらしい…」
台座から腰を上げつつアルジオス その右手が腰の小剣にかかる
壁にもたれたままのランド=ローの瞳に 剣呑とした光が宿る
「兄者やハイネストは 間に合わなかったようだな」
サンソレオの剣が抜き放たれ 白いオーラが溢れ出た
遠くから近づいて来る すさまじい数の足音 それ以前に みなが感じていた強烈な殺氣 足音が大きく殺氣が強く近づいて来る
咆哮
唸り
叫びが床を壁面を 大氣をびりびりと大きく震わせる

「さぁ 派手にいこうぜ!」
一斉に回廊へとなだれ込んできた 妖怪の軍団へ
それぞれの武器を手にして 五人が疾る


荒れ狂う爆炎がリフィラムをとらえる! 
直後至近距離で放った炎の黒魔法術は 密閉空間の中でその余波を術者へも跳ね返してきた
吹き付ける熱風から顔を羽織でかばっても なお ちりちりとしたその熱さを伝えて来る
逆らわずにその勢いと共に 後ろに跳躍したサディは すぐさま眼前にかざした羽織を払った
炎を割ってなお紅い双瞳 リフィラムが飛び出す 予想通り魔法が弾かれたのか ダメージは受けてはいない

「魔法は望み薄ってことね…」
リフィラムの振るう白刃を サディは自らの剣で正面から受け止める
ギヂッ…
命中の瞬間剣を捻って 力を受け流すように リフィラムの刃をうまく泳がせると 間髪いれずに最短の軌跡でそのわき腹を狙う

「なら 剣でカタをつけさせてもらうわ!」
剣での防御も間に合わず 立派な銀製の板金鎧の鎧目を狙ったサディの一撃が リフィラムの胴を凪いだ
かなりの血を流しながらも 表情一つ変えずに リフィラムは魔法の詠唱に入ろうとした
「させやしない!」
詠唱のさなか サディは一氣に剣の間合いへと詰める
金属鎧を纏っていない分 敏捷性は最大に活かされている
眼前にまで踏み込んだ時 まだリフィラムの詠唱は終っていなかった
何を考えているのか解らない その朱瞳が死人のようにサディを見つめた

「これで終わりさ!」
バスタードを両手で構え 力をのせて左下から一閃 
鎧の鈍い衝撃が腕に伝わるのも 構わずに一氣に振り抜く
返しざまさらに一歩踏み込み 斜めに剣を振り降ろす
ブバッ…
リフィラムの顔が縦に割れ噴き出した 血に顔面が紅く染まる
その左の二の腕と脚からも 動脈の切断を思わせる程の 多量の血が脈打って噴出した
神経にまで触れたのか リフィラムの左膝ががくっと崩れ落ちた

「まだまだ 甘いっ!」
さらに容赦なくここぞとばかりにサディの剣が 動きの止まったリフィラムを切り刻んでいく
全身のいたる個所から血が噴出せば 銀がまるで鉄錆にでも腐食されるかのごとく
あっ と言う間にその色を黒い鎧へと変え 床は一瞬の後に血の海と化した
「とどめっ…!」
水平に放ったサディの剣の一撃は リフィラムの首筋を見事にとらえた
十分に加速の乗った白刃は 頚骨近くまでその肉を裂いていた

ひゅうひゅう と呼氣の漏れる音が静まり返った部屋に
いやに大きく聞こえた が それもやがて消えていった
部屋は再び沈黙し 僅かにサディの荒い息遣いだけがその空間には残された

「はあっ はあっ はあっ…さすがにこれだけ斬れば死んだでしょう…」
リフィラムが動かないのを確認し 一つ大きく肩で息をする
刀身を振るってまみれた血を落とすと それを鞘に納めないままにして サディは一つしかない入ってきた扉へと足を向けた
「…」
ふと後ろを振り返る 血の海に沈む リフィラムはぴくりとも動かない
剣を受けた傷口は大きく口を開けたまま 細胞再生は始まっていない 血が入ったせいかその瞳は閉じられている
サディはしばらくそのリフィラムを見つめた
どうも氣になってしかたがないのだ 致命傷は間違いなく与えている
しかして 異常なまでの生命力を持っている上に 細胞再生能力を有すこのリフィラムにははたして十分だったのか
だから再生の間を与えずに一氣に切り刻んだのだが 現に再生は行われていない

「考えすぎかな…」
呟いた時 リフィラムの左腕が ゆっくり と動いた
人差指を伸ばすと ばっくり 裂けた顔の前でそれを振る

「チッチッチッ…甘いなこの程度では…」
再び朱の双瞳が見開かれた 相変わらずそこに感情の光は宿ってはいない
だが その口調にはあからさまな侮蔑の響きがこもっていた
瞬時にして細胞の再生が起こるすべての傷口は それによって完全に塞がった
立ち上がるリフィラムを見つめ サディが苦々しげに呟く

「あれだけ切り刻んでも 生きてるなんて…」
いったいどうやったら殺せるのよ…
最後の言葉は飲み込んだが 正直どうしていいのかわからなかった
魔法はほとんど効かない かといって剣による傷も あっ という間に治癒してしまう
一撃で殺さない限りあらゆるダメージは回復してしまうのだ

この化物はあまりに桁外れな生命力を持つ こいつを剣によってしとめることは 先ほどの攻撃から考えれば不可能
まだ 瞬間に焼滅熱量を熾せる魔法の方が可能性はある

しかして もし無効化された場合 もう完全に打つ手はなくなる
長引かせればこちらが圧倒的に不利
そうなればやはり全精力を傾けた 暗黒魔法の一撃でしとめるしかない…

剣を下げリフィラムは無造作に間合いを詰めて来る その顔に酷薄な笑みを張り付けて…
珍しくサディの額に冷や汗が浮かんだ 焦っていたのかもしれない それがゆえにサディは冷静な判断を失いかけていた
リフィラムが空いた左手の手の平をだらりと下げたまま開き その唇に詠唱をのせ始めると 手の平に低温化した空氣が白い水結晶の煙となって生み出された

どっちでくる…剣か魔法術か…!!
右手の剣が振るわれるのが先か 左手の黒魔法術が放たれるのが先か サディは両腕の動きに意識を集中させる
リフィラムが跳躍する
まだ 手はどちらも動かない
「…剣っ!!」
振るった剣と剣が正面からぶつかり合う
が サディはその時になって 自分のとった行動の軽薄さに氣付き 内心で舌打ちした
リフィラムの人をはるかに超越した筋力と 正面から打ち合えばどうなるか…

ビギィッン!!
サディのバスタードがリフィラムの剣を受けた
刀身の半ば辺りから折れた そのままに 強力で身体を吹き飛ばされる
それほどに広くはない部屋の為 即 速度が落ちる間もなく 背中から壁に激突した
「…っ!!」
身体のきしみに声が出なかった

『氷鋭蛇牙流…』
続けてリフィラムの放った氷の冷氣が 数匹の蛇の形を取って牙を剥きサディへと襲いかかった
全身の痛みがかわそうとしたサディの動きを邪魔し 防ぐ間すらなくまともに直撃した
ザシャアッ
腕が 腹が 脚が 氷の蛇の鋭い牙に突き抉られ血を流す その激痛はサディにとって耐えられない程のものではなかったが
「…」
頬にひきつるような痛みを感じ サディが左手で触れてみると ぬるっ とした感触が伝わる 
それはなま暖かいサディ自身の血だった
左頬が大きく裂けていたのだ 眼のすぐ際から顎まで
無言でその血にまみれた左手を見つめ サディは ぐっとそれを震えるほど握りしめた その表情が大きく歪む

「絶対に殺す…最大の破壊暗黒魔法を全精氣かけてでも たたき込んでやるっ…!」
低い声でそう吐き出すと 身体を屈める様にして床を蹴った
脚を狙ったその斬撃をかわしつつ リフィラムも剣を叩き降ろす
剣は外套の裾を微かに切り裂くに留まり サディはリフィラムの脇を全身の傷の痛みをものともせず 俊敏に駆け抜けた
『 心の狭間に宿るは 狂爛の幾功伸 砕け散るは汝の魂 具縛の源 そは混沌にして無へと心を導かん…』
低い地獄からの呼び声のごとく 詠唱が背後で始まった
振り向きざま サディは手にしている折れた剣を大きく振るった
剣がまともな状態だったとしても 完全に間合いからは外れている

ヒュン…
空を斬る鋭い音と共に疾る 銀閃の軌跡
リフィラムの呪文が止まる
サディはリフィラムに向かって剣を投げつけたのだった
『具現せしは破壊 獄炎の源 現世の扉を打ち砕き その力を今 解き放てっ!』
剣を投げたと同時に詠唱に入っていたサディは
リフィラムの僅かな戸惑いを見逃さずに 極限までの集中力で その呪文に全精力を費やし完成させる

…これでも足りないっ!
このまま放ったのでは リフィラムを倒せないことをサディは瞬時にして悟った
威力とそして何よりリフィラムの魔法無効化の能力を撃ち破る決定打に欠けている
自分の限界までの精霊界への門を開き 現世へと流れ込もうとする莫大な炎の精霊力
この次元に この階層に そしてこの空間に集束しつつある
今にも爆発せんとしそうなその波動を 周囲に感じつつ それでもサディは求めた
『別の力が さらに別の力がいる!!』
無意識に 右手は天を掴んでいた
そして 出し抜けに それは出現した

「使いなよ 結構役にたつぜ その矛は」
部屋の中の様でそれでいてどこからともなく遠くから聞こえてくる少年の フラッシュ=バックの声
サディの右手にはフラッシュ=バックの持つあの奇妙な三又の矛が握られていた
『雷衛龍騰燼域!!』
矛によってさらに増幅された炎の精霊力が 一斉に奔流と化して現世へと具現する
部屋は紅蓮で覆い尽くされ 氣温の爆発的な上昇に空氣は瞬時に陽炎と化し そして激しい音をたてて蒸氣が上がり始めた
水分ではない四方の壁が 床が それを構築している岩石自体が 余りの高温に蒸発しているのだ
爆炎が部屋中を嵐のごとく狂い吹き荒れ まさに炎熱地獄がそこには具現していた

「ケシ炭になって消え失せろっ!!」
星霊龍を解放したサディも無論 その爆炎流に容赦なくさらされた
しかして 結界でも張られているのか サディを囲むように半径ニ米程度の円形の空間から内側 その閃熱は完全に遮断されていた
手にしている三又の矛 烈帝ファイナルの力だった
フラッシュ=バックの持つ虹剛金ミスリル製のこの三又の矛は 今をさかのぼること一億二千年前
聖帝の血を引くナゴスギール一族十一第目の長である 烈帝 ファイナルが己の子孫達が歩む運命の礎とならんがため 己の魂を触媒にして創造した器の一つなのである
それ故に烈帝の力を有したこの矛は 星神の力を封印された天器として すさまじき能力を有しているのだ
そして烈帝ファイナルのいま一つの超越的な能力は…

「無駄だ 俺には魔法は通用しない」
灼熱の溶岩の中でそれでもリフィラムは平然と立っていた
召喚の炎に包まれてもその肌は焼けることもなく ただ溶けて形を失った鎧が液体となった銀が身体を流れ落ち
その途中で空へと蒸発している
埋もれる溶岩が脚を焦がしてゆく が それすら間を置かずに細胞再生している
「俺は 殆どの魔法を無効化できる」
『貴様は 魔法の無効化を矛盾反転の内にさらされる』
フラッシュ=バックのその声は リフィラムにしか聞こえなかった
途端に その召喚炎がリフィラムの全身をなめ尽くした
いままで火傷ひとつ負わせられなかったその炎が リフィラムの肉体を焦がしていく

「馬鹿な! なぜ魔法が通じる! なぜ炎が我が身を焼くのだ!」
『そして再生能力も 正と負 陽と陰 矛盾反転の天秤により計られるのさ』
溶けていく皮膚が タンパク質のいやな臭いを発しながら焦げていく
肉が超速度で再生していたが 続いてそれも停止した

「解らぬ! 何故に我が能力が消えるのか…!!」
特殊な能力を失ったリフィラムの肉体は すでに不死身ではなかった
足元の溶岩が渦巻き荒れ狂う炎が 今まで超然と存在していたその肉体を 疾く無へと変換していく
炎に溶け崩れるリフィラムをみすえてサディは得意げに言い放つ
「わたしに喧嘩を売るには どうやら五十億年早かったようね! 出直してらっしゃい!」
「…矛の力がなかったら どうなっていたか」
サディには聞こえない程の小さな呟き

「フフフフ…そうか その天神に通ずる力…どちらにも傾かず両端を揺らすその力…その矛が…エ…ヴァ…ンスの…なるほ…な…」
朱の世界に その肉体が完全に消失する瞬間
残っていたリフィラムの顔には 凄艶なまでの笑みが浮かんでいたのをサディは確かに見た
今は安寧に滅んでやろう…
されど我は不滅 必ず蘇る 我が主が滅びぬ限りな…

炎もおさまり静寂を取り戻し始めた中
サディは不思議とそんな言葉を聞いた氣がした

「どんどんきやきがれ! いくらでも相手になってやる!」
叫びと同時に 眼前の妖鴉が切り捨てられる
アルジオスは床に叩き落としたそれにはすでに見向きもせずに 新たな相手を求めて回廊を駆ける
その手には小剣ではなく長槍斧ハルバードがあった 戦いのさなか丘巨傀ヒルギガスから奪ったものだった
すでに その刃が何匹の妖怪をしとめたかは覚えてはいない

それぞれ離れた位置では サンソレオがその聖剣で獅子奮迅の活躍を
ランド=ローが巧みに魔法を折り混ぜた戦術を
ドレイラが障壁を張り回避に重点を置いた戦いを繰り広げている

みな圧倒的な数にもかかわらず その実力差が戦況を有利に運んでいた
さらに妖怪の軍勢の中を 風と化したラトゥヌムゥが吹き抜けていく
優雅な流れは しかして 疾風のごとき真空の波動は
その後に妖怪の姿を一片たりと も残してはいかない
触れたものを皆 風の道へと誘い まったく別の場所へと吹き飛ばしているのだった

もともと統制のない妖怪達のこと やがて その実力差を悟り ほうぼうの逃亡を始める
やってきた方角へと向かった そのうち一体の妖蝙蝠が角を曲がる瞬間に消滅した 妖怪達の足が止まった
「すまんな 遅くなった」
そこには黒き鎧の闘将がいた 手にした魔剣 地呑獅刀が闘氣のごとき精氣を解放している
背後にはハイネストの羽織を纏ったウォーラが ちょこん と顔を出し 妖怪の群れを見てひきつった表情を浮かべている

「主役の遅刻はいただけないぜ ハイネスト!」
すでに臨戦体勢で回廊の角に現れたハイネストに向かって 刃を振るいながらも アルジオスは軽いウィンクを送る
「ウォーラ! よかった ハイネストと一緒だったのね」
とりあえずは無事そうなウォーラの姿を見て ドレイラが安堵の声を上げる

「命をやり取る 度胸のある奴だけ掛かってこい…」
地呑獅刀を眼前にかかげ 妖怪達を見据える
その眼光にしばしその動きの止まった妖怪達は それぞれが行動に移った
その瞳に恐怖を抱き ハイネストの脇を抜けて逃げ出すもの
瞳の持つ畏怖という狂氣に取り付かれ 無謀にも攻撃を仕掛けるもの
とてつもない圧迫感を受け ただ立ち尽くすもの
そしてハイネストは回廊へと踊り込み手にした地呑獅刀の凝氣が ハイネストの心に呼応して一段と膨れ上がった

「きゃぁっ!!」
一方すさまじい形相でハイネストの脇を抜けて走って来る妖怪達に悲鳴を上げるウォーラ
「こっちに来なさい!」
いちいちかわすことを止め 妖怪達の攻撃は障壁で弾くに任せると同時に
ドレイラは手早く呪文を唱え 杖を前方へ突き出した
先端から直線的にほとばしったまぶしい雷光が 立ちふさがる妖怪達を焼き焦がし弾き飛ばすと
パニック状態のウォーラと自分との間に 道となりそうな空間をつくった

ちらり と横目を向ければ ドレイラのその視界にはすでに勝負の見えた戦いが映った
いや もともとこの結果など火を見るより明かではあった
いかんせん実力差は甚だしすぎる 戦いではなく妖怪達の無駄な消耗戦である

そして
アルジオス 
ランド=ロー 
サンソレオ
そして新たに加わったハイネストの 戦塊のごとき闘氣と戦いざまにより
すでに妖怪達は完全に浮き足だっている 結末は時間の問題だった
ドレイラは視線を元に戻し両手を広げると ウォーラに自分の方に駆け寄って来る様 示しながら
自分もその妖怪を弾き飛ばした後 一時的に出来た道を走った
ド_
グ_
ォ_
ォ_
ォ_
ン_
!_
!_

そして 大音響が突如としてこの回廊を激しく震わせた
「何だ一体!?」
あまりに突然の出来事に思わず剣を止め周囲に目をやったサンソレオの眼前には信じられない光景があった
「…っよ 溶岩じゃねぇかっ!!」
アルジオスもその出来事に我を忘れて叫んでいた
並んでいた二つの鉄の扉 その左の扉が瞬時にして融解し
そこから大量の赤く煮えたつ溶岩が 濁流となって噴き出してきたのだ! 
溶岩はあっという間に回廊へと流れ込み 圧倒的な熱量を放出して辺りを埋め尽くす
「どうして 溶岩なんかが…って悠長に考えてる間なんてねぇ! あんなの被ったら骨まで溶けちまうっ!」
とっさのことながらも その身体は本能的に動いている
生死を分ける一線は その一瞬の行動によって引かれた
溶岩から逃れるべく
アルジオスが
ランド=ロー
ハイネストが
サンソレオが
ほとんど差もなく それぞれ近くの台座の上へと飛び上がった

「ウォーラっ!!」
数歩先までの距離に迫っていた時に
ドレイラは背後で扉から噴出した 溶岩流の存在を確認した
間に合わないっ…!!
そう悟るなり 自分も側の台座へと懸命に飛び上がる
台座に乗るなり振り返り その表情が愕然となった
すでに回廊は溶岩の河と化し 奔流の先端は遥か通路の向こうへと消えていく僅か数秒のことだった
それは無慈悲にもすべてを奪い食らい そして 溶かしてしまっていた

「あ…」
眼前に迫る溶岩流を見ながら ウォーラは動くことが出来なかった
わたし あれに飲み込まれて死ぬのかな
…やっぱり熱いんだろうな…骨まで残らないのかしら…
自分へと向かって来る溶岩流を見つめ そんな考えが次々と頭に浮かんで来た
実際 それは数秒にも満たなかった しかして ウォーラにはとても長い時間の様に感じられた
だから眼前にまで溶岩流が迫っても ウォーラはそれを妙に冷静に見ていた
力なんて全身のどこにも入らない それでも感覚だけは意識だけははっきりとしていた
溶岩が肌に触れるか触れないかのその刹那 ウォーラは腰を抱き寄せられた氣がした

「…?」
ふと我に返った時には 台座の上にへたりこんでいた
台座の下に広がる回廊は溶岩の河と化し 奔流の先端は遥か通路の向こうへと消えていた僅か数秒のことだった
それは無慈悲にもすべてを 奪い 食らい そして溶かしてしまっていた
妖怪達の影も形も もはやそこには残されてはいなかった

「大丈夫だったかい 吸精姫 じゃじゃうま のお弟子さん?」
すぐ頭上で聞こえた声に ウォーラは顔を上げた
隣に立っていたのはフラッシュ=バックだった
「た 助けてくれたの?」
「まあね」
「あ ありがとお」
答える声は乾いていた 今になって恐怖の実感がようやく沸き起こってきたのだった
座り込んだまま溶岩の河を見つめ がたがた と全身を小刻みに震わせている

「みんな 無事の様だな」
サンソレオ
ランド=ロー
ドレイラ
アルジオス
フラッシュ=バック
ウォーラの姿をそれぞれ台座の上に見つけ ハイネストはとりあえず緊張の糸を緩める
「…しかし いきなり溶岩が出て来るとはねぇ」
この空間にこもった熱氣に 浮かぶ額の汗を手の甲で拭い去りつつ アルジオスは屈み込んで回廊だった所を見やる
ひんやりとした 建物内独特の冷たい湿氣のある空氣に触れた為か灼熱していた溶岩もわずかながらも冷え始めている

「左の扉から噴出してきたようだが…」
険しい表情で サンソレオは扉のあった位置を見つめた
「たしか サディが中に入っていったんでしたよね…」
大きくため息をついたのはドレイラだった
みんなの視線は 左の扉のその奥の空間へと注がれた
しばしの後

バジュッ
バジュ バシゥゥゥゥゥッ
氷の破魔法が何発か 扉の向こうから放たれた
戸口辺りの溶岩の床が激しい水蒸氣を上げ その温度を急激に低下させた
凍るまでいかないまでも 少なくともその周囲は熱を失って部分的に固まりかけている
それを踏みしめ全身いたるところ切り裂かれた 外套を纏ったサディが姿を現した
もっとも その下の肌の傷のほうはすべて 塞傷の精言霊で癒してはいるようだが

「師匠!!」
「…お主 私達を殺す氣か? とんでもない炎の暗黒魔法を使ってくれたようだが」
「相手が相手だけにね あのリフィラムを倒すには これぐらいやらなきゃ駄目だったのよ」

「な!? リ リフィラムと戦ったのか?」
リフィラムの名を聞いてみな驚愕する
用事をすませてくると言っていたが まさか一人であのリフィラムと戦いに行っていたなどとは
ただの命知らずの馬鹿者なのか あるいはどこまでも自信家なのか

「ええ」
さらりと言うサディ
「で ヤツは!? 倒したのか!?
「もちろんよ 所詮あたしの敵なんかじゃなかったわ…っていいたい所だけど ぎりぎりなんとかね この矛がなければ…てあれ?」
言いながら右手を見て 意外そうな表情を浮かべる サディの右手は何も握っていなかった

「おかしいな…確かに矛があったのに…」
しきりに首を捻るその様子を フラッシュ=バックが面白そうな顔をして見ていたのにサディは氣が付いていなかった

「なんにせよ ついにあのリフィラムも倒したのなら いよいよだな…」
降魔神軍近衛隊長を倒し 最後の妖怪達の総攻撃をも撃破した
今残る敵は魔王のみ
サンソレオが白の剣をきらめかせた 刀身には一点の曇りも存在していない 今のサンソレオのその心を映しているようだった

「しかし この溶岩をどうするんだ? まだ熱くて歩ける状態にはみえないが」
当惑ぎみにアルジオス
溶岩は完全に冷えきってはいない 灼熱の状態ではないまでも 高熱と柔らかさは残っている歩くなどとても無理な話だった
「サディみたいに氷の破魔法で溶岩を急激に冷化させますか? それなら何とか歩ける状態にまではなるでしょう」

「いや 霊力は魔王との戦いに温存しておくべきだろう この溶岩を冷やすには通路の部分だけでよいとはいえ十発以上の破魔法が必要そうだ ここは…」
言いながらフラッシュ=バックはサンソレオへと視線を向ける
「私がやろう」
その視線に答えサンソレオがうなづく 左手を足元の溶岩へとかざし 静かに瞳を閉じる
何が始まるのか 興味ありげにみなの視線がサンソレオへと集中する

【「土の理よ 我が意志に 我が鉱が杖に従え 元あるべき姿を思い出せ」】
古妖精語の精言霊を知る者は サンソレオがそう言ったのが理解できた
そしてみなの眼前で溶岩は生きているかのごとく変化を始めた
その熱は急速に失せ その流動性が失われていく 溶岩は岩へと変化していた

【「砕けよ!」】
サンソレオの言葉に応じ 回廊を満たしていた溶岩もはや冷えきった
それは一瞬にして細かな砂粒へと化し 回廊を流れ出すように崩れさった
「すごい…」
感嘆の声を上げるウォーラ
そう言えばこの力を見るのはこれで二度目だった

「そういえば 後で教えてくれるって言ってたわよね この不思議な土の技のこと」
砂の上を歩きながらサディが ハイネストの方を見やる
台座から砂の上へと飛び降りたハイネストは サンソレオへとその視線を促す
「私の持っている杖の力だ それ自体の神通力が 自在に土を操ることが出来る力を持っている」
「へぇ面白いものを持っているのね その力の大きさからじゃ 妖精王国の魔法の品物程度ではないようね」
「うむ それより遥か古 神話の時代の祀器の一つ まあ そんなところだ」

それぞれが台座から飛び降り 九人は再び集いあった
残された唯一の扉の溶岩にさらされてさえ びくともしなかった荘厳なその扉の前に
扉を枠造る石柱に宿る 悶える妖怪達の群像が一同をいやらしい笑みを浮かべて見おろしていた
闇に刃向かう愚かな者を嘲る笑み 絶望へと誘う甘美な笑み
滅びを招く破滅の笑み
冥界門をくぐる者を見送る 現世で最期となるたむけの笑み
この扉の向こうには魔王がいるのだ

長き戦いに終止符を打つ最後の瞬間が ついにやってきた
この戦いで勝敗は決まる
降魔神軍と琥珀月皇国との戦いも この戦いが今までのすべてに答えを出す
琥珀月皇国の勝利か 敗北 か
そして
「俺達の いや 息とし生ける良民全ての 生か死か」
扉を見据えるハイネストの呟きに みな汗ばんだ手で 自分の武器をもう一度握り直した
サンソレオが
フラッシュ=バックが
ラトゥヌムゥが
アルジオスが
ランド=ローが
ドレイラが
ウォーラが
サディが
そして ハイネストが
それぞれの思いを胸に抱き最期の扉を見つめていた

「さぁ 最後の堰を切ろうか…」
すべてを吹っ切ったかの様な澄んだ口調で ハイネストは言い放つと 両開きのその扉を押した
扉がきしむ音をたてて開く
大陸の
ハイネスト達の
サディ達のすべての未来はその向こうにあるはずだった
それを掴むため一同は部屋の中へと足を踏み入れた




決節「 ハカリ を揺らす指先」

広間には静寂が宿っていた
誰もが言葉を失っていた
それほどまでに眼前の光景は 信じられないものだったのだ

「なんなのよ 一体…」
拍子抜けした呟きが サディの口から漏れたのは かなり時がたってのことだった
天井の高い大きな部屋
薄暗い蜜蝋の明りに照らし出されたその部屋は 扉から鮮血の色合いを呈した絨毯が部屋を割るように敷かれ その終点は三段ほど高くなった玉座になっている
部屋全体をおおう陰氣を通り越して 妖氣すらたち淀むその空氣は しかして 今のハイネスト達には白々しく感じられた

そのすべての原因は足元にあった
絨毯の上には人が倒れていた 身の丈はおよそ百三十糎ぐらいの子供と見まごう程の小柄な男
もはや それは ぴくりとも動かなかった

「うそでしょお…あれで終わりなの!?」
叫びをあげたのも やはりサディだった
しかして それも無理からぬことではあった
今 足元に倒れている人物こそ 降魔神軍最高権力者アホンダウラその人なのである
サディならずもみな起こってしまったこの状況に どう反応すればいいのか戸惑っていた

「起き上がりませんね」
妙に冷静に観察するウォーラ
「だな」
思わず それにうなづいてしまうアルジオス
「さて どうしたものか」
この状況と これから後のことが一度に頭に浮かび 混乱しながらも対応策を思慮するサンソレオ

「…」
とりあえず無言のランド=ローと 抜き身の剣を持て余すハイネスト
この状況の張本人ともいえるドレイラにいたっては 氣の抜けた表情のまま魔王の骸に目をやっていた
事実はひどく簡単である
魔王は倒された ただそれだけのことなのだ
しかして それが納得出来る過程の後に生じた現象でないことが
彼らの意識に それを現実として 受け入れさせるのをかたく拒んでいるのだった

魔王との最終決戦の火ぶたが切られてから 僅か十秒の後
魔王はすでに床に倒れ伏していた
皆が無傷のまま出来事としてあったのは
ランド=ローが低級の雷の破魔法を放ち
ドレイラが低級の光の矢の破魔法をぶつけただけである
それだけで魔王は倒れた

「ふざけんじゃないわよっ!! じゃあ今までの戦いはなんだったのよっ! あのとんでもなく強い化物リフィラムは!? 近衛隊長がアレで魔王がこのザマ!?…っていうか 亦 何時もの洒落?あたしをナメるのもいいかげんにしなさいよっ!」
やり場のない怒りの声を張り上げるサディを後目に アルジオスはハイネストに視線を向けた
「…どうする?」
「どうする…って言われてもな とりあえず魔王は倒れた これですべてが終わったってことになるんだろうな」
釈然としない表情を浮かべつつも ハイネストはそう応えるしかなかった

「ま いいんじゃないの 俺達の仕事もあんた達の仕事もようやくこれでおしまいって訳だ」
アルジオスの背中をどんと叩いて フラッシュ=バックが言う
「俺達はもう少しハイネストにつき合うが 兄さん達はどうする?」
聞かれてアルジオスは自分達の目標がなくなったことに氣づいた その後のことは何も考えていなかったのである
「さぁてねぇ…もうアテはないしなぁ デーモンテイルの剣闘士大会にでも出るってところかな…なぁサ…」
アルジオスの言葉はそこで途切れた 視線を移した先のサディの様子がおかしかったのである

「おい サディ?」
呼掛けも聞こえないのか 不思議そうな顔をしてサディは天井をじっと見つめてた
「あたし 疲れているのかしら」
サディには珍しく そんな自問の呟きがその口をつく
「そんなことないと思いますよ」
サディの視線を追って 同じように天井に目を向けたドレイラも サディと同様の表情を宿していた 二人の異変に氣づき残る皆も一斉に天井に視線を移した

壁に灯した明りは十分ではなく 天井は闇の向こうであった
吸い込まれそうになる暗黒の空が部屋を覆っている
いや この場においては空と言うより 海の方が正しいかもしれない
見上げた誰の目にも 果てのない深淵を思わせる天井付近の闇は 波うつように歪んで見えたのである

遥か彼方から闇が次々と押し寄せてくる 幻影のような感覚を この場にいる全員の視覚はとらえていた
しかもそれが決して偽りでないことを他の五感は伝えていた

「どうなっているんだ…」
突如起こった不思議な光景に驚きを隠せない
サンソレオ その側ではフラッシュ=バックが何やら考えている

と 闇の流れの中に一点 明りが生じた
その明りはゆっくりとだが次第に大きくなっている
どこか遠くからやってくるのか それが何であるのか 認識出来るまでには かなりの時が必要だった
「船だ…」
誰かが言った

そう それは間違いなく船だった
魔王の謁見の間に 天井の闇の淵から出現したのは 淡い光に包まれた帆船だった
その状況をただ見つめる事しか出来ない一同とは関係なく 船は滑るようにこちらに近づいてくる
船が大きくなるにつれてそれを包む光は一段と強くなっていた

そして船が天井の高さと思われるほどの距離に近づいていた時には すでに直視出来ないぐらいの光量になっていた
しかして それだけの光量にもかかわらず 不思議と熱は感じなかった
どんどんと強くなっていく光が目を向けていなくとも 更なる船の接近を認識させていた

「ぶつかる…!」
光の最接近を感じたハイネストが小さく叫び 誰もがその衝撃に備えて身構えていた
しかして その時は訪れることなく 突如 光は消滅した
訝しく思ったハイネストがゆっくりと目を開けると そこはなんら変わることのない魔王が倒された直後の謁見の間だった
そこにはあの光も船の影も形もなかった 天井も微動だにしない闇が支配している
変わっている事と言えば只一つ
サディ達五人の姿が その場から忽然と消えていたことだけだった

不思議な現象に首を捻るハイネストや 消えた五人の姿を求めて部屋中に視線を向けるサンソレオ
しかしてフラッシュ=バックだけは視線を天井の闇に向けたまま 納得した様な表情を浮かべていた

「時巡らせ周る天翔船か」
フラッシュ=バックには 船が出現した瞬間にすべてがわかったのだった
あの船が何であるのか そしてサディ達が何者であったのかが
「きっと また会うだろうよ…あんたたちには」
そんな予言めいた呟きを漏らし フラッシュ=バックは口元を歪めた


氣が付いた時には サディ達 五人は船の客室の中にいた
「どうなっているの この船…」
突然の状況の変化に戸惑いながらも船内をみわたす
中央には大きな円卓
大陸の地図と船の模型
そして 壁には大陸暦十八年から二十年の年表と書かれた大きな張り紙がある
一同は誰とも無く それに目をやった

大陸暦 セイバー VS リフィラム 親子の対決
セイバー勝利
大魔王アホンダウラ  暗黒地方 リップゾーン の妖怪の都メシリ=エイネスに転居
アホンダウラ VS バルカッゼル セイバー チェスタ

破魔剣聖側の勝利 しかしてセイバーの消息が途絶える

太陽が昇るようになる(ウェーズの単独侵攻 止まる)

バルジェイ行方不明
「次はヴァランスとの戦いがあるから帰るぞ ラカンパネラ?四代目じゃまだ無理か
マケイジュラがなんとかするさ」

ブレイハルト神聖国 プラタニティ死去

カルクレアー 法王の代理となる

タトラートから“浮葉”のロベリアルという男がやって来て
ブレイハルト宮廷最高破魔導師 に就任同時にオストラコンの討伐

ブレイハルト神聖国と北国オストラコン
ハルノアの鉄人兵団
と死霊騎士団 騎士団長 ネーデルワード
アホンダウラ降魔神軍 連合 カルクレアー以外の部隊(レッカ レイカ)死去
(666 ヴェル=ヴェル ネーデルワード死去)
十九年
ブレイハルト神聖国 ロベリアルの力により西大陸北部統一
騎士団長に就任
リチャード病で死去


と描かれている

そして 各 座席椅子の上にはご丁寧に
アルジオスの妖刀 翡翠爪やサディの堰月白虎 ジアザード
鎧 外套 無くなっていた筈の あらゆる装身具が置かれているのに気付いた

やがて 船を動かしている透明のゼリーに身を包んだ狂骨がどこともなくやってきて

20年 サディ達 現代に到着


と 紙を年表にはると船は消え
そこはビクトラウト城門前であった


ロベリアルとの初顔合わせ北方の駐留所の一幕
暗闇 ぼぅ と発光してるロベリアル

座禅で浮いたまま すぅ と手をあげ ふっと腕を降ろすと四方に四色の珠があらわれ
それらが四大精霊王と化し 数十体の下級精霊達をロベリアルに仕掛ける

ロベリアルは目を閉じたままその場所を動かず ゆらり と両腕から発っする白光球で迎撃してゆく
暗闇を走る四色の光の軌跡
それらをやがて包み込み 淡き白光その中心でただ 粛々 と舞う 白き肌と薄青の髪色を持つ少年
それは閉されし 空間 へや での激しくも整然な舞闘会

サディ「なるほど“浮葉”とはよくいったものね」
しばらく現世とは 疎隔の時を過ごしている感覚に襲われていたが
四大精霊王達自ら一斉にロベリアルに襲いかかり 寸での処でロベリアルは四つの上半身のみの 幻身を出し 各々がいっせいに魔法を唱える
『さ迷える星屑達より出でるもの 全てを解き除け』
セイバーが生い立ちと 亡き国王の姪姫 クランの救出任務の放棄
あげく怪物の助命をして 騎士号の剥奪と追放の件を ロベリアルの知識としてサディ達は教わる

シュナイダー「そして セヴィリオスの助けた怪物とは 魔王によってそのすがたを変えられた 元人間だったとも噂されている」
カルクレアー「いま 奴は法の騎士ロベリアル ただそれだけだ」
ロベリアルは紳士の模範としてサディ達に接してくれる
ロベリアル「過去の私に罪があるなら 今は己の剣技と魔法の力を大陸のため ブレイハルトの騎士として戦うまでです」
ロベリアル ウォーラに
『リーゲン破魔剣兵法の書』を渡す
力素の頂点 『禁呪光臨』 より 
全ての力素暗黒魔法 付与の頂点 

『環素創命』 より 
全ての練金暗黒魔法 死霊術の頂点 

『不死霊士』 より 
全ての死霊暗黒魔法

竜道術の頂点 
『完全竜蓁』 より 
全ての竜語魔法

そして 魔法と剣術の総合武術を記している
という超国宝級の魔法書の妖精語版が記されている

ロベリアル「いつまでも師匠に迷惑をかける弟子ではいけませんから ですが こちらは彼女達にも内緒ですよ」
現代語 コモンルーン 版を渡し すぐに荷袋の中に直すことを告げる
ウォーラ「は はは…」

その晩
サディ ウォーラの本を見て
ドレイラ「よく解らない遺失の文体ばかりですね 所々しか読めませんが かなり高度な破魔法であることが解ります」
ランドロー「 魔法語 ルーンロード ウル  ロベリアルですか」
サディ「まっ 貴方はシリア様の妹だから なにか素質みたいなものはあるのかもしれないから 研究はしてみたら?」


サディ エリックの墓参り
その際 フラッシュ=バック キコクへ来いと挑発
キコクでオニガミ(元キコクの巨傀王国の王子で降魔神軍に滅ばされた)の独立運動を興す
追撃機兵インタセプターオメガがキコクに現れ巨傀島襲撃
オニガミ 戦闘の末 激雷狙撃銃で胸を貫かれ死去

サディ VS オメガ 灼熱の砂丘で戦う
オメガの拡散巨大霊子砲サディ 意識不明 の重体
(湖ができたり山がふっ飛ぶ  滅茶苦茶が押し寄せる光景)

イーマ 北部を完全に鎮圧
ハルノア領進行とする際 オメガ聖都へ奇襲
オメガ バルジェイとロベリアルの袋叩きさえ 二十四次元腹巻から修復道具をだし復活
(その空から落ちてくる廃棄物で ブレイハルトの街は大火事)

すると天空から舞い降りた覆面の戦士(顔出しは御先祖様に申し訳ないとかで匿名希望)
のはらまき集中攻撃へそが現れ 拡散巨大霊子砲を放つ
その瞬間 覆面の戦士の剣先から霊子砲返し!
オメガのへそに直撃そのショックで墜落し 東の沖に沈没
その勇者も空へと帰っていった

フラッシュ=バック「遊びも長引けばダレるだけですから そろそろ決着をつけましょうか」

フラッシュ=バック
サディを入れて置いた『再生装置』の 波璃 ガラス を叩き割る

塔に入るとそこはいま来た場所が鏡の様に反転した世界
人はいなくまるで時間が止まった様な世界
どう探しても塔の入り口はない
しばらく考え入ってきた入り口を引き返す
そこは塔の最屋上
床は白と黒の市松模様が代わるがわる変化している
フラッシュ=バックがそのど真ん中で 粗末な木の椅子に肘をついて座っていた

最終戦

七色の孔雀が羽を落とすもの

司るは均衡にして

生きる糧は緊迫の矛盾

二局の天秤を揺らす手に 乱世を謀る仮面の道化師


フラッシュ=バックを倒し倒して 七人目
サディが牽制をして ランド−ロ−が空に『転移』しそのまま剣をつき立て フラッシュ=バックの仮面に落下
ヒビが入り 割れると同時に閃光が全員に照射

閃光の中のアルジオスの光景

セイバーが畑に黙々と種を蒔いてる

手合わせでもいいから もう一度戦えと言ってみる
しかして 奴は目もくれず 自分に背を向け蒔く手を止めない
試しにこのまま切りかかろうか?と一瞬考えた が やめた
その去り際アルジオスの肩越しに聞こえた一言

「左なら 命がないぜェ」

そしてアルジオスの全身が光に包まれ 意識が薄れ逝く

「死ぬ覚悟が出来たら 何時でも来な…」




終節「生を吹くモノ達」

(海岸背景には矛盾の塔)
サディが木にもたれている
海岸には仮面を被っていないフラッシュ=バックが向こうを向いて倒れている
そして仮面を被った見慣れた いでたち をしている 蜥蜴仮面の人物が登場
その人物はサディの前で仮面をはずす
サディは口元に冷笑を浮かべて
「…それが貴方の弱点なのよ」
と 震えながら右手を挙げ『黒球』を召還するや否 その人物は暗黒魔法を唱える
サディ 抵抗する氣力もなく ゆっくりと瞼を閉じていった

それは記憶が時がたてばまた 蘇る封印−眠り−の精言霊
???「刺激を転がし続けた者 もはや温もりなぞ欲せず…
貴方が真の王として目覚めんが為 それが幾時代有りとも彼の『異性』として
輪廻する私の生けとし 定刻 さだめ

(森)
ウォーラ目が醒める
眼前にロベリアルの顔
あわてて飛び起きるウォーラ
ロベリアルは微動だにしない
ウォーラは起き上がりロベリアルをかいまみる
身体からは白金の光を発し
ウォーラの倒れていた地面に 祈る ように片膝をついてその光を注いでいる

一度『魂解滅』の暗黒魔法が行使されると
肉体や 砕けた魂 は完全に現世と分離し 元の 芯 だけとなり
黄泉の門をくぐり冥府五界 いづれか一つの世界の根底で完全につなぎ止められる
こうなれば蘇生の黒魔法でさえ不可能であり
ロベリアルは己の魂魄を分離させ 自らの神通力 八千年分の霊命 を媒体にして 星霊力 を高め揚げ 
その比類亡き力で五界−天界 羅界 獄界 温界 我界−を 輪廻 し その中からウォーラの 核 を見いだすと
それを根底より引きずり上げ その核に再び 千年の寿命を吹き込んで 霊魂 を形成し
もう千年の寿命をつぎ込んで 器たる 肉体 を創造する
異例にして無比なる 反移魂の狂業を犯したのであった

『自己−犠牲』

この言葉がウォーラの脳裏に


『私ノ為ニ』

波浪のごとく網羅し

『他人であるアンタが』

胸には熱いものがとめどなくこみ上げて来る

そしてロベリアルに掛かっていた
『持続』の力を失った『我身変現』の破魔法が解け 徐々にその姿はセイバーと化していく
セイバーはうつろな目で ウォーラに微笑みかけながら ゆっくり倒れていく
その寸でウォーラが彼の身を支え その小さき背に抱える
今の無力な半抜け殻状態のセイバーなら どんなに微力な少女でさえも 意のままに支配することが出来よう

しばらく無言なる時が続く

するとセイバーには目の前にある 妙に長いもの が氣になるらしく
突然ウォーラの耳をはむっ☆!っと
(上下の唇で包み込むような やさしさの中に 一筋の刺 八重歯 をもって)
噛んだ

「ひっ!!」
そして耳もとで 暴言 をささやくことで この沈黙の禁を解いた
「フッ 結構 感度 がいいんだな…あんたがどこまで 女 だったかは知らない…俺にはウォーラとしての“からだ”のイメージしかないんでな まっ 今後の成長に期待するよ」

そう言いつつもセイバーの魔手が 彼女の胸に差し掛かろうとする
そのまま投げ飛ばすように一本背負い
セイバーは一回転宙がえりで着地しつつ 森の奥に消えていく
ウォーラはすぐには追わず
一度この晴れ晴れした大空を見上げ
自分も森の奥へ消えていった



第U番最終楽章 終演








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