爆稽奏曲「シリアとその一味戦記
第T番〜大陸革命」

其れは 一つの刻録レコードより流るる ゆらうたひ にて…


言魂の幸う世界の皆さん 御初に御目に掛かります

私はラォイ=ルトヌ=マン=ラォイ=アァアィ=フゥォニ=ヌゥヌィ=ドゥァギ=ルゥ=ウェヌ=トゥラ=ヴゥィル=ヌゥス 訳し  アルンザード=エントラヴァンス  改め アホンダウラ=エヴァンス

私達の世界 すなわち このレコードと 貴方々の世界との接触を企てる 極稀 の存在です

さて 此のレコードに刻まれて織り座す 限り無き世界 と 皆無き世界 が興り亡す 塵屑の神謡 は

貴方々の現実では 御伽 幻想 空想上の世界 わたしたち の世界では それが 真誠 にして 現実

権欲 と 破壊
業魔 と 幻滅 の条理

けして 悟ることなく

けして 終ることなく

ただ ひとつ

心 という共通点を除いては

では 暫しのご清聴 あらんことを



其は    意志

其れこそ  想像

其れこそ  生命の始まり

沌々なる混濁の渦中に 一つの太劔の往来ありて ときはじめを象す

其が意志は乾坤としてしかれば 世を二つに分かつ後
天極が留まり群枝と化し 発つ芽をば 神つ世 と指さん

神つ世に 絶なる彦星神 虚無が神 と 始源が女星神 母なる神 在りて 両者の間 天と光つ子 地と暗つ子 創造が子 が生まれん

創造が子 あまたが 法界 を創り その一つ虚無が神より止められし世界 物質界 すなわち命ある者を創りしこと
虚無が神 物質界の存在を認めざるは 感情 持つ 人 なる 息が在 恐れん

他の兄弟と 性 違えたし創造が子 他が者を愛す 熱 なる 情 を持あひ
かくも おのが創りし命を 殺めざるは難き 父が目ば盗みては 急せと 未熟なる物界が 新しき息物を創り置く

虚無が神は憤り 創造が子の在を滅さんとす

創造が子はこれ抗い 破力が象徴 九つが龍王 戦う為が武具 天器 をば作り星霊雲カミガミを率いつつ
天伸テラトル 天霊龍プラナダイヌソル 天霊獣テラゲマイル 等を持ちいては 幾億の歳折りてたたかいにけり

虚無が神も初め 虚無の力にて対に抗うが 創造の子の 創造力 に追いつえず
虚無の神も生き物 戦力 を創造すも 創造が子の力 上回ること能わず

かく 戦いは終わりて 創造が子 虚無が神の記憶奪いて 物質が界隈に送らん

今は絶対神となりし創造の子 於て 創造全神たるものは 情熱が執拗と化け 愛欲 芽生えては
虚無の神を追放する間際 彼が男根をば神が剣 革命を用い切り 誠実の心を植え付く

亦 愛欲が欲情と化けては 母なる神 と 己神 とが交わりて 自分の力を三つに 分かつ身 を生さば 母に闘争心を植え付け 記憶を奪いて物質界に降ろす

その子の一人 己と同じ情熱 心 を持ちし娘が 全神に乱起こし 全神は二人が息子 剣 と 知恵 を用いそれを制す

次なるは両つ弟神 晴つ神と 暗つ神が戦いた後 晴つ神が克てば 全神は自分が暗つ神となり 世の旋律が均衡を測る

全神 その晴つ神とも戦いて 自身共々 晴つ神を人界に墜とす

何一つ不自由なき生活を 生き物に与え来た筈も それを裏切りて 然と 己が慢と憎 業を憶え 全神は失望が念を持ち 彼らに悪の心と供に生きる努め 煉魔の法を教えつ

暁は 残りの細かき世界が創造が為 物質界に各々の神々を呼び寄せ
己が 創造全神たる前に黯蟠ヤミワダ司る泰魔皇として この世に絶望と恐怖を与えること内脈に秘む

やがて 幾歳つ逢瀬を重ね 人が逢う 鋼鉄の世 と実を結ぶ




第一楽章「跳凡の始まり」
「冒鋒者になった訳?ここ以外に世界がある というのなら行ってみたいじゃん」白き妖兎の娘 シリア=テルティース

彼女がこの世に生を授かって一年が過ぎ 最初の名を天より賜る日
月が赤黒を曝す 月蝕と呼ばれる春の事

ここは ある妖兎一族の庄 彼女の名は シリア

彼女 すなわち 卯種妖精 妖兔族の一生は実に暖かき

母なる光の神 父なる暗の女神のもと 自然の恵みに満ち溢れた 定刻さだめに住んでは 悩み 疑い 争いもせずに 自然と供に逝く
己の氣のおもむくまま 幾万の齢を終え 次生も幸ある魂を紡がれる 理想の時を流れゆく

その遥かなる時の大河に 一滴の濁りあり その濁り 後の命まで狂いを及ぼす 未だ 小川の段階において……

事件は 月が再び太陽から与えられし金色の光を紡ぎ 銀色の翳りを纏う伝説の 再生 の刹那

長老は この子は変化自在にして 虹色の剣 太古の降伸イルミネイラの祀器を抱き生まれし この娘に シリア=テルティース=ヴァ=ミザム=エイカ=ネキスと名付け

長老「わがマドロスの眠れる民は すべて 盟君ナゴスの伝え 寵児 君の法に還る折 その栄光の加護を」
と世に祈る

では 御大層な名を戴きたる 彼女の一生は 妖精種族の中でも 穏和な妖卯族 ごく普通の少女に育っていく因果律を定刻とす

彼女 そして 彼女達にとって 剣 は一生必要なく 存在 も意味がなきが故に

やがて時は流れ 不思議と泣きたいような夜 その冷たい 剣の囁き に耳を傾け 外界 という存在を知るまでは


ここは 切株 とその周囲数十平方センチにして 厚さ八十糎程のみの空間

その見目麗しき痩身の 御仁 は十余年もの間 宙浮く切株 に座り続けていた

茜色の髪は長きにして あえて自然に任すも整いを保ち 瞳は深き黒陽の輝きを宿らせ
肌は象牙のごとく白皙にして 密やかな 麗氣 を漂わせ 出で立ちは素足にして 薄紫の薄絹が映える 野 と 貴 が結集した 御仁

その御仁に宿された深き闇色の双膀 ただ 無間 に広がる前 だけを 無言 に見詰めては
切株の側面に 若き子枝が一つ生えた頃に 突如 隣に出没した 青年 の存在すら眼中にも無き

青年「ねーねー お姉さん で 何しているの〜」
御仁はその声と供に ゆらり と 青年の方へ首を傾げ 自然 互いの視線が交差する 御仁はそのまま沈黙を解かず 青年を ただ 見つめる
青年はその静寂の風香に狩られ 相手の出方を伺う事なく自らの言葉を続ける

青年「ボッ ボッ ボクは ここに……そう 悪〜い 悪〜い 化物が現れ……君じゃないな……アレは……そう アレは いくら化けても こんなには なれっこないから」
御仁は その訳の解らない青年の言動に対しても ただ すう と前方を指差し
肝心の青年の目が そこに辿り着くまでは 多少 時 を費やすことになる

それは御仁が身に纏う 盛服ローブデコルテの襟元が背中まで抜かれた麗人
青年にとっては その くびれ の方にこそ 目を配す優先権があると判断した

青年「……じゅる えっ? ああ 解った 君はこの向こうのに住んでいる妖精ヒトなんだね で 外界に遊びに出たはいいが 新しい結界が張られていて困っている……ってとこかな〜」
御仁は こくり と頷く たしかに妖精 しかも 高貴な血がまだ残った僊弧ハイエルフなら 言葉が通じなくても仕方が無い
更に 琴線バディラインにおいては あまりに期待出来ない卯族にしては 女の見せ方を十分心得た 粋 な方ときなさる
それは 軟派師たる 青年にとっては 格好の標的である証

青年「ボクに まっかせなさい このへんを ちょちょ〜ん と切って 森の中との時空を繋いであげる あっ 一応 数メトルばかし離れてね」
と言って 腰元の鞘から一差しの剣を抜き 空間に剣を振り入れる
空間は ぱくり と割け 幾色の光が漏れ出す
青年は感慨深かげに その空間を見つめながら 後ろの 御仁 に話しかける

青年「いや〜 今回は素直に協力してくれたな  でっ 君 その代わりといっては悪いけど 君の本当の名前教えてくれないかな」
御仁 は 青年が言い終えるよりも早く すぐ後ろまで来ていた

青年「いや〜 君とは氣が合いそうだし イイ お友達になれそうな氣がしてね あっ ボクの名前は ミラン よろぴくね〜」
と 言い終えるが否 御仁 は その肩に手を置いた

ミラン「(うひょっ 見かけによらずイケル口!?)……だから 君も いつでもボクに会えるように 本当の名前を教え……」
御仁は ミランの頬を撫でるように面を向かせ 自然 ミランの半身もそれについて流れていく

ミラン「ボクはこうみえても召喚……え〜い まどろっこしい こうなったら即決 即実行あるのみ!!」
ミランは 御仁 の唇を奪うべく 体を翻した が 視界に御仁はいない
御仁は その場に身を屈め 即 ミランの戸惑うその隙に水月みぞおちに尖拳を叩き込み ミランは即 ぱたり と意識を失って倒れた
 が 御仁の視線は 既に青年にはなく 剣士 としての 自分 を昂ぶらせた 彼が用いた腰元の剣を取り上げ 暫く眺め一つ振ってみる

剣は無反応であった 

御仁は 倒るるミランを無視しつつ
御仁「勿体無い これほどの剣を用いるには 心 が愚かすぎるというか… 俺 にも扱えぬ 祀器 の主にしては……」
と 天にその剣を投げた
剣は 黄金 白銀 黒銀 の閃光と化し 彼方に消える
が 未だ眼前の異彩を放つ空間の 裂け目 は残っており 彼 はその向こうに誰かがいるかの如く語り始める

御仁「この 結界断層 は距離間も掴めぬし数も多すぎる 結局は予想を凌ぐ 更に高い位置にあったとは…まぁいい…これで長き復讐の旅に決着が符けられる」
と 言い終えると 御仁 は其の空間の中に入っていった

「ちょっと まて」
ミランは がばっ と起きた

ミラン「まて……っていっても居ないな……ちっくしょ……げっ 剣がない まだ 俺は死んでないぞぉ〜 くぅぅ〜 さっきの不届き者も 男 だった訳だし 今度は 容赦はしないぞ アレ とまとめて 成敗してやる」
と言って 右手を手刀横一文に薙ぎ出せば 異界 の言葉を発する

ミラン【唯出ただいづれ 群青の平晏飛燕】
と 横一文の手刀 を基準とする 垂直の方向 距離にして ミランの目の先半歩前に 青銀の閃光が現れ 
全長75糎の剣に変化しては その剣が落下を始めるがよりも手早く 左腕を斜めに掬い揚げ 逆手で剣を掴む
ミランは一瞬 ふっ と笑って 剣に視線を促したが すぐさま 始めの剣が入れてあった鞘に納め 彼の後を追った

そして その空間の向こうから 大閃光が揚がったのは 暫くしてからのことだった

シリアは 遠く東の空で光る 幾彩色の雷光に呼応したのか
手元で淡く光る剣が 一瞬 強い輝きを発したことにより その旅立ちを決意した

あの光は 初めての外界の景色 この 剣 という不思議な存在
そして 自分の知らない世界 シリアは東にこそ外の世界に通ずる 穴 があるに違いないと思った

森とは 裏を返さば 蒼月光やみの精霊 の強き処 奥深く茂る木々の遮りによって陽の光を許さず
道を知らぬ者が足を踏み込めば その樹の重なり合いによって 永久にさ迷い歩く

しかし シリア にとっては我が庭 草木を痛めぬ 良き 道 より樹の上 を伝わっては 一直線に駆け進んでいく

やがて 樹の列が一旦途絶え 木漏れ日の射す広場が眼前に開けてくる そこは通常 友を囲っての唄や躍りの会場となる所
そして 今 その広場中央の踊り場スキップフロアには 一人の見慣れぬ男が 倒れ伏している

シリアはその人に駆け寄り そっと顔を覗き込む 茜色を髪の色をした 綺麗な顔立ちをしているが 妙ちきりんな奴である
そして それは ううっ とうめいた

シリア「よかった……生きている」
妙人はその声に反応したのか うっすら と目を開き 自然 シリアと視線を交わす

ぷつ  ぷつぷつ

がばり!

妙ちきりんな奴「うわっ!!……っと……びっくりさせないで下さい 私はあまり心臓が強くはない方なので……」
と言うも シリアはその場に腰砕けに転倒していて 聞いてはいなかった が すぐに海老反りにして 後方転回の動作をとると
 ぴたり と途中で動きが止み すぐさま前方に跳ね起き 顔に未だ鳥肌を立てている妙人を 目の前にして言葉をまくしたてた

シリア「こっちこそ いきなり 何 ? それに 誰!?」
妙ちきりんな奴「はい 私は 子供嫌い にして 一介の絵画き リスティ」
シリア「……あっそ で!一体 何故 ? そして どうやって!?」
妙ちきりんな奴「はい 絵画きとしての 好奇心 そして 不思議な空間を見つけ 跨いで やってまいりました」
シリア「…あっそ で 後ろで私に向かって 剣を振り上げてるのは誰?」

妙ちきりんな奴「はい それは……「(ミランの声)二人トモ覚悟ォォ!!!……オ、オ前 何時イツ着替え
エ……ゲッナンデモウ持ッテルンダァァァ……クッソォォ 撤収 テッシュュゥゥ〜」……恐らく通りがかりの乱心者 私も初対面ですし……」
シリア「……なんとなく 解っ……いや それよりも ちょうど良かった……」

ばしぃぃぃぃ!!!
ミラン「はぅぅぅっっ!」 ぱたり


シリア「……で なぜ あんたは私を襲った訳?」
ミラン「ハハ 誰が襲うって?僕は盆地には興味ないね」
シリア「?」
リスティ「……ああ お嬢ちゃん こういう意味です ぼそぼそ……」
シリア「……うん?……なっ!?だから 儒命人ニンゲンって莫迦バカなのよ!
『乙雷精よ 光の鞭を撃て!』」
びしぃ! 
と 光の精が織り成す檸檬レモン色の鞭が あらかじめ縄縛された ミランを痛打する
ミラン「あぅ!そんな趣味はないのに」
シリア「また訳の解らない……」
リスティ「彼は反省している訳ではありません」

主星  揺籠クレイダラス
    堕首破壊大陸フォール=ディストラクテス にて

???「りーすぅーてーいー 早く上がってきなさい この丘を上がればもうすぐなんだから」
ども 私 幽玄の画士 こと リスティオス=ウェード 一介の旅の絵描き(花の独身)です
自分で言うのも何ですが私 一流の軟派師で 女性の鑑定眼には長けている筈なのですが ドーモ貧乏くじを引いてしまったようです

???「なに一人で ぶつくさ言ってんのよ」
……はるか奥の方で私を呼んでいるのは シリアという名の 卯兎種族リョースエルフと云う妖精ヒトで 私に言わせれば 非実益 茶飲みランク のお嬢ちゃんと言った所
先刻 とある場所で彼女に出会い 氣軽く話しかけた所 見事にドツボにはまって 面倒なことに 付き合わされたという訳です

シリア「ちょっと 次の街まで荷物を 運んでもらうだけじゃない」
えっ 今の小言 聞こえたのですか?
シリア「それに この魔導書とかいうのを 勝手に処分しても 良いのっかなっ」
という訳で しかも奪い返そうとしても 彼女の方が 身のこなしがよく 私では とうてい太刀打ちが出来ず 頼みの杖まで 取り上げられてしまっては お手上げの有り様です
ちなみに 棒はよき 杖 として 彼女の足取りを より 快適にし
代償として その棒先がボロボロになっているでは あ〜りませんか 無論 私とて 要件が住めば 遁ずらはいたします



シリア「……で 結局 遁ずら されて 十二 三年越しの再会という訳ね」
ここはヴァームシルト[世と 武勇誉れ高き六大公家が治めるファーラム皇国の 皇都ルバーム 人口は五十七万人これは 堕首破壊大陸一で 都のみで他都市の約七倍の規模を誇っている

というのは やたら高山や沙漠が多いこの大陸の事情 大きな平野を中心に 二大勢力に落ち着いた結果であり
およそ四百年前 南にデルトック魔公国なる軍事国があったのだが 更に南の密林に生息している妖怪達に襲撃され 公国の一将校であったヴァレスト(後の初代政騎皇ヴァームシルトT世)に率いられ逃れてきた 移民 達の血を引いている

都市は大陸の中央の海岸沿いに位置し 長く浅い運河を隔てた広大な平野に創られた後に ファーラムは皇国として独立し
後 西破壊大陸の前期ハルノア龍帝国の崩壊と供に ハールヒレト都市国 揺籠司法神ファクトニール大神殿の司神主16代目聖剣大帝 サンソレオ=アモナート=ウル=ヴォートベン猊下より ファクトニール法界下 正ディストリック政騎皇と拝領される つまりは 司法がもとにある武家が治める国として公認されたのである
逆にデルトックは 辺境伯扱いとしてファーラム皇国の勢力に取り込まれた

これだけの好条件が揃いながら 過去の歴史に於き この広野に文明が栄えなかったのは
およそ千四百年前、妖狐皇圀東方軍 と名乗る 西の大洋を隔てて存在する西破壊大陸ウエスト=ディストラクティスの蛮族があたなみに因って 数百からなる小国家が 一つも残さず滅んだ為である

妖狐皇圀の滅亡後、暫くの間は西方も騒乱期に入って音無しかったのだが ファーラムの建国二百九十五年目の暦
その西より来たる三万の大海賊団がルバームに来襲して来た折に 当時 皇都の総人口は十二万人にして九割は武装解体の商民 それは 国家存亡の危機が訪れ ということであった

当時 国内では 遥か東の大陸よりやってきたという 七人の風来坊達の噂と 四年毎に行われる蛟竜試合での好成績が話題で 国王は彼らにも助勢を以来し 彼らは独立行動を条件に許諾した

海上に敵が発見された報告を聞くや否 七人は窓より天空を びゅん と掛け瞬く間にて海岸に就けば

一人は 遥か沖に見えし船の甲板に火蜥蜴精霊サラマンダーを走らせ燃やし
一人は 海中に 海精大鋸鮫 を呼び 船の動きを止め
一人は 嵐精霊王を召しては 大竜巻を創らせ海に落とし
一人は 海に大渦を創りては その中に落とし
一人は 幻の陸地を見立てては 沖に泳ぐようにしむけ
それでも 陸に上がってくる豪傑を 最後の一人が 一刀の元に切り捨てていった
こうして 壊滅的な打撃を負った海賊は引き上げていった

この救国の功績を讃え 己の率いる軍隊の将軍に向かえるとともに土地と爵位を与え 更に 彼らの子息に 女子が生まれた際に 王家の子息と嫁がせることを約束した これが列国有数の ファーラム皇と六大侯爵家の興りである

最後の剣士の存在は 謎に包まれており  王家伝承記中 一千年の神秘とされ 太古が伝説にある天聖護法騎士団長 初代聖剣大帝 バルカッゼル の使い 破魔剣聖 の降来だったのではあるまいかとまで推察が飛ぶ

その名残で よその土地から流れてきた者達の規制は 比較的に他の都市に比べ緩和され
その者達への仕事の斡旋について 積極的に働いてくれる冒鋒酒宿に 国費として義援金を出してまでいる

そこに付け入って 流れ者のまま 都市に籍を置かず 生活を営むなりわいの連中が 存在し始める その中でも冒鋒者アドバンストなどと名乗る連中が一番 品質(たち) が悪い

冒鋒者とは かつて 救国の風来坊達が この未知なる西の地に夢を馳せやって来た際 自らを「吾等えもののぞむ者達」と宣言した為
その達の様に いずれ世に名を残す英雄になる為だとかいって定職にも就かず 剣や鎧を用いて武装しつつ大陸中を放浪しては
邪悪なる妖怪モンスターと称しては 異種族を排除しようとする過激派の国家や神殿が勅許の下 それらの集落を襲いて 新しき領地の確保をもくろむもの達に雇われた徒党パーティの呼び名で
近隣の部族や墓陵を荒し尽くすと亦 新たなる街にて同じ様な依頼を受ける法治文化圏ソサエティに認められし無頼漢アウトロー達の事であるである

しかも この一連の偽善行為を 彼らは公然と 冒鋒 と称す故
一般市民たる労働者達から 皮肉を込められ夢冒者アドリフターズとも呼ばれている

して シリアと云わば 手形なぞ持ち合わせぬ民の出
冒鋒者と致さない限りは 入国および武器得物ウェポンの携帯許可が理由を持ち合わせていはいない

なぜなら 観光客 というのもごくまれな時勢の上 民下には凶器に対する役番の調べも厳しい それは 王公・僧・貴騎・民・新民・隷(無税者)という身分階級により住居 生活形態 も分離されている御時勢であるからにして

冒鋒者は 新民登録税を払うことで 手形 を発行してもらっては 第五番目の民 となる訳だが
確実な利税が徴収出来ない分 金融や保健からは対象外となるが 大きな街によっては 冒鋒酒宿行会なる全国規模の仕事の口利き商人団が存在し それらの預かる依頼を果たし その報酬から税を天引くことで 国家は税収を賄っている

で 先刻の「結局トンズラされて……」という云々の件は
その街の一角 「冒鋒酒宿 栄光の幌馬車亭 繁盛中」と掘られた看板を掲げられし建造物の中 対面の店大将マスターに青果実の飲物を頼んだ時に 彼女の口から漏れた言葉である

彼女がこの店に来た理由は経てして 宿で安らかなる睡眠をとるためだけではない
冒鋒者酒宿とは 彼等にとって重要な仕事 神殿や役所 民間等から得られる 依頼の仲介を請け負っており
同時に大衆酒場を兼営している場所である
旅宿はともかく 酒場まで兼営するということは  自然にそういう無頼漢ならずものを集まり易し
其の都合上 兼営する場合が 栄光の幌馬車亭を例に多く
とりわけ冒鋒者酒宿と称し その都市にある冒鋒者酒宿行会支部の出先として営われている

シリアの前に透けるような青緑色の 冷たい薄荷酒が運ばれた
シリアはカウンターに肘を付いては腕を組み グラスに視線を注いだままうつ伏せると
シリア「どうやら彼に また 逃げられたようね」と言った 

と云うのも リスティは『古式塗油』なる古代妖精語破魔法の唱詞ルーンにより 魔法書の表面に滑らかな油沢を付けては シリアの手より するり と抜けるよう促すと 
間一髪入れず『古式蜘縛』を詠み唱えては 彼の手に移動で戻り すかさず 彼は 賑わう街路の雑踏に紛れ逃げていった

シリアはそんな始めから逃げる 余裕 があった 彼の慢心に憤りを禁じ得ないでいた

が 彼女はもう機嫌を直したのか すぅ と身を起こし波璃盃グラスに手をかけ 軽くそれを振ると からり と音を立てると ふと微笑氣味に ふぅ とため息を付く

シリア「あのリスティとかいう男 口ではうまいこと言い寄って来て 結局 割りに合わない事になると逃げていく……ウン 結構逃げ足だけは早かったな そして 雰囲氣が軽そうな人間 なるほど あれが世に言う軽薄男か……」
彼女はこの人間社会に興味を引かれて 飛び出してから幾年たつが 見るも聞くも全てが未だに珍しく 面白かった
ときにはトラブルもしかり それもまた新鮮で痛快な日々 この一悶着もまた 人間社会に生きる勉強 だと居直ったのであった
さて これからどうしようか と 一案の刹那 後方より人の氣配を感じた

シリア「これは……殺氣!!」
素早く振り返ると そこには 燃えるような赤色の髪 猛き獅子のような眼孔 腰には長剣を穿
少し色あせているが 鮮やかな紅色に塗られた鋼の鎧をつらぬく 年は二十五 六 長身の青年が立っていた
シリアが何か言うとするよりも先に 青年はボソリとつぶやく

????「天喰狼と言う刀を捜している お前 知らないか……」
シリア「……知りませんが」
????「そうか」
といって くるり と背を向け 向こう側へ言ってしまった

シリア(何だったのだろうか あの兄やんは……別に攻撃を仕掛けて来るでもなし しかし あの炎猛精霊ヒュリィドを常に昂ぶらせた氣配は……なるほど 儒命人ニンゲン の中には 常に怒りを持ち続ける感性さがをもつ奴もいるんだ 人生疲れないのかな……まっ いいんだけど)
玻璃盃グラスを口に運べば

????「貴様 おちょくっとんのかぁぁー」
ブホッツ! ゴホホッ……ゲホケホッ……
彼女はおもわず吹き出して咽せ 声の上がった後方を振り返る
そこにはさっきの兄やんが 妖鼠と口論になったらしく 妖鼠の首元らしき所を釣り上げている所である

さっきの兄やん「あぁ!? それが金をもらって 情報を与える者の礼儀かぁ?」
釣り上げられ じたばた している妖鼠は 声を上擦らせて言葉を返す
妖鼠「そりゃ あんさん 人に者を尋ねるときぐらいは 寸贈チップ ちゅーもんが必要やさかい」
さっきの兄やん「じゃかぁしい!! それで お前 「ふっ なにも知らんがな」とぬかし 逃げようとしただろ〜が!!」
とその兄やんが言い終えるよりも早く その妖鼠は釣り上げた手に噛みついて離れ退く
さっきの兄やん「もう許さねえ」

兄やんは噛まれた手で ぐっ と筋が浮いた握り拳をつくり 逃げる妖鼠を くわっ と猊みつけながら その後を追った
妖鼠の方は方卓テーブルの下に飛び込み 兄やんも同じく 方卓の上から覆い被さるように 体当たりを浴びせる

卓は見事大破 が 妖鼠は既に店の角にまで逃げ そこに置いてあった観賞用の羊歯椰子シダヤシを掴み兄やんに投げる

兄やんは羊歯椰子を素手で叩き折り落とすと 妖鼠は 対面長台カウンターに逃げ込み それを隔て玻璃盃グラスや皿が酒場を飛び交う
それらが約 数十枚程度 迄に至った時 シリアはやっと重い腰をあげ 彼らに近寄っていく

シリア「ハァ……金の盲獣に 危ない兄やん 最後まで傍観者に徹しようと思ったけど もう 常識の範囲を超えているみたいね……」
シリアは まるで台風一過のような この有様を一別すると 静かに詠唱に入る
シリア『雷帝が銘の許 閃光の精霊達よ ここに集いて二つの輪を育め 目指す男を囲う区域に!』
兄さんと仮名された男の体は 淡い二つの光輪に縛られ 身動きが取れなくなる

兄やん「な なんじゃこりゃ!?」
してやったりと 妖鼠は出入口に駆け込んでいく
妖鼠「チャーンス!!ほな さいなら」
シリア「逃すか!『閃光の乙精よ 裁きの戒めを彼に 閃光鞭撃』!!」
手から放たれた光の精霊が鞭は 妖鼠の後頭部を痛打する
妖鼠「はぅぅ〜!」と言いながら氣絶する
そして シリアは手際よく 本物の縄で彼らを縛り上げたことで やっと騒ぎは治まった

一時が立ち 喧騒の残骸を外に運び終えると 店の中がやけに広く感じる
シリアは二人を壁際に寄せ 座らせるとこう曰った

シリア「……貴方達が壊した 酒場の修理代はどうするつもり」
兄やん「えーい うだうだ 言うなー 早くとおぉぉけぇぇぇ」
妖鼠「なんや なんや ワテが何した言うんや ぐちぐち」
シリア「まずは貴方達 いくらかお金を……」
兄さん「ぬぁぁうわぁぁうおぉぉと」
妖鼠「こうなったら ワテ出るとこ 出て訴え……」シリア「アタシも」
兄さん「ぉぉぉけぇぇぇぇ」
シリア「…かった船だし アタシもヒマ……」
妖鼠「ワテにはなぁ有力な弁護……」兄さん「とぅおおぉぉくぇぇぇぇ」
妖鼠「……ぇ やさかいあんさんには……」
兄さん「とぅおおぉぉくぇぇぇ??!!」




!!

という訳で 三人は酒場の修理代を払うため 店大将マスターに仕事を斡旋してもらうことになった
リューク「な 何じゃ? あのすさまじき剛の凶器は……」


仕事の内容はまず冒鋒者として 基本的な 狒々坊主ハゲゴブリン退治から始めることになり リュークは「人手がもっといる」といって 酒場から出ていった
続いて 無言で こそこそ 出ていこうとする妖鼠の衿を シリアは「アンタは逃げる魂胆でしょ?」とひっ掴んで差し止めた
一刻が立ち ぬぅ と 宙に浮いた青年が入ってくる シリアは声を詰まらせた

シリア「リ リスティ……」
正確にいうと青年は リュークに首元を掴まれていた
リューク「向こうの通りで どうやら金に困っているらしく 火を吹いて客寄せをやっていた 大道芸人を見つけた」
リスティ「やー どうも 私は別に新しく購入した破魔法を試していただけで人が自然に……」
リューク「ハッハッ そーやって 遠慮することはない みろ 飯も食えずに こんなに痩せ細ってるではないか」
ぷらん ぷらん と揺れているリスティ
シリア「えっ?貴方 破魔法使いだったの?」
リスティ「はい 今日 からですが……」
宵の刻 即ち 妖怪にとっては 起床の刻



謎の傭兵シグマム「(徒党が全員洞窟に入った後)洞窟の入り口に剛琴線ワイヤーを貼って置くと 面白いように狒々坊主の首が捕れる」
リューク「確かに 奴等は敵わぬとみたら 形構わずに逃げるからな」


ウェーズ「そこの暗妖狐ダークエルフ……本家黯現クロウツツ流の切れ味とは斯ういうものだ」



シリア「ウェーズとか言ったわね とりあえず礼は言っておくわ」

シグマム「俺は流離の傭兵……群れるのは嫌いだ……」
ウェーズ「結局 罪は人間が決めつけた傲慢さのみにある あいつらには罪はない」
リスティ「……」
リューク「ごぅるぁ! お前達 早よ来んかーい!!」



第二楽章「魔皇凱旋」
「この世には英雄の凱歌があるように 悪には悪の鎮魂歌レクイエムがあるのさ」アホンダウラ=パピシャス

たわい無い話も好きな賢者達の間で この時期の星の瞬きが美しいと言われているが その極みたる 深夜 を向かえようとしている

深夜というのは最も静寂にして蒼き月光やみが一番篭る時 即ち 妖怪達の活動の時 その妖怪達の集団部落の一つに 冒鋒者なる 非人道的進入者達が越圏してきたのが事の始まり

或る妖猩ゴブロス二人が 草木の焼ける臭いが鼻に擽った故に 遅い起床から目覚め洞穴から出たときは 森は焼野原 そして自分たちが 眼前の奴等の 最後の標的になっている事に氣付いた
今 彼らのリーダーらしき破魔法使いが 小刻みに震える 醜い妖怪達 を下品な口調で詰った

破魔法使い「やっと一匹に追いつめたぜ ザコがぁ! 貴様等なんてカスカス! よって 俺は手を下さな〜い 後はお前達に うりゃ と暴れてもらおうかぁぁ いっけぇぇ〜!」
と 同時に左右に控えていた二人の男達が つい剣を振り翳し唸りながら猩々に迫る

「グォォォォォー!!」
その猩々はただ逃げまどうしか方法はなかった そして その逃亡の末 破魔法使いからの追跡からはどうにか免れた
が 残りの戦士二人による 遠巻きの挟み打ちの策に陥り 到頭 山奥の崖まで追い詰められ窮地に立たされている

だいたい 猩々達には罪はない この森の先住者は彼らであり
ちゃんと自足生活を営み 人間達の村には危害を加えていなかった
が 新しき村長が神官氣触かぶれで

村長「きゃつらは 存在自体が罪なのぢゃぁぁ〜」
とかかさば 村人達も金銭を得る実益を背景に 妖猩達が棲む山を攻撃し始めたのである

妖猩達は決死で抵抗した 自分達の故郷を守るために

しかし 人間達は冒鋒者という名の殺し屋たちを雇ってきた しかも その者達はかなりの手練らしく 次々に同僚達は倒れ 近辺七つの部落は全て滅んだ

猩々達も断腸の想いで 食料一月分を条件に 用心棒妖狒ホブゴブロスの郡団を雇ったも報われず 次々に 凶つ獣 のもとに倒れていった

そして 最後の生き残りとなり 打ち拉がれる二名の妖猩が内 猩々其の壱 は 右斜前方に転がる首なき焼け焦げた幾つかの死体 我が良き友達 を一別し
錆び付いた匕首ダガーを片手に 襲いかかってくる二人の獣を乾ききったまなこで睨み付けけると 己の死を覚悟するかの様に くわっ と瞳を見開き闇雲やみくもに突撃した

ボレィ「でやぁぁー!!」
妖猩其の壱「チッッ キショォォォォ!!」
冒鋒者達は同時に行動を起こしつつ 先ずは一人の戦士ズースの大剣が首元に振りおろす 猩々其の壱 は とっさに上半身を後ろに反らす暁 体制を立て直そうとする

が その隙に彼のすぐ側面にけた二番目の戦士ボレィの長槍斧ハルバードの鈎の部分による
膝の裏関節狙いの鋭角な回転払いを受け
その強引な力技により 妖猩其の壱が體は宙に回り 肩から倒れ込み ごりっ と間接の外れる音を覚え 痛みが じわり と走る

その狂戦士二人の内 ズースの方は 背を向けていた無抵抗の逃亡者 妖猩其の弐 を剣先で反転させ その脅えきった哀れな表情を観察しながら嘲笑を放つ

ボレィ「覚悟しな 虫ケラ」
二人のどちらかとも云えず 真二つにするべく鋼鉄の得物が唸りをあげる!
が!!

???「フフ……『古式蜘縛』」
それは 何処いずこからともなく聞こえし 地に轟くような皺枯れた声 そして 間を置かず 茂みより しゅるり と 蜘蛛糸のごとく粘りが生じる糸縄が投げ出される
あたり一面に広がったと思う刹那 その粘糸は生き物のように 二人の戦士の武器に襲いかかり絡みつく

ズース「なんじゃ こりゃー!?」
戦士達は突然のアクシデントにただ戸惑うばかり 第二の破魔法の追撃を許す事になってしまった
???「クスクス……『古式窮鎌弾!』」
続け様 茂みより発せられる氣合い とも言うべき 真空の衝撃破が 二つ 飛んできた
戦士達は それぞれ を浴び 網に突き刺さるべく 体躯はふっ飛ぶ が 反動で前に どんっ と倒れ込む 二人はすでに息はしていなかった
亦 茂みの中から声が聞こえてくる

???「クッ 申畜(エテ)供 なんかを助けるとは しかし 弱息を助けつつ 強きと自惚れる儒命人なぞを 全力をもっていぢめるのが…おっ 妖猩どもは目は良いねぇ 頭は悪いけど…オイラの姿を感知しやがったか あっ 礼なんかいらんいらん 只の趣味でしたこと ん!? 貴方とても強い ま まあな……えっ? そしてその洗練された容姿……よせやい そのまばゆき姿は彫刻の美男子…ハハ……まさに美の化身だってぇ……」

???「フハッ アハッ!ワーッハッハッハッハァー!!サインはあとで……まぁまかしときなっ 復讐とは氣高き美徳の心 その儒命人の村なぞミナゴロシ……って えっ?…ドーシテソレヲ とな…フフ オイラには何でも解るのさ……」


ここは森への東の入り口 早く村に帰りぐっすりと眠りたい破魔法使いは仲間二人を待ちくたびれ ついぞ愚痴をこぼす

破魔法使い「ちっ おせーな……まさか…まぁ あいつらの腕だったら猩々なんざ 半太刀だろーけどよ……ならば 何んで帰ってこねーんだ……ああ 奴らのこと 蔵でも見つけ漁ってるに違げえねぇよ」
と一人問答している所へ ががさっっ と前方の茂みより相棒達が現れはしたも その辺り一帯が異様な蒼月光やみの濃さと 重み を感じると 破魔法使いも自然 身震いが走る
そう 何氣ない風乙女の囁きも 背筋を凍らせる死神の鎌鳴りに聞き違える程に しかして 破魔法使いはいつもの高慢な口調で 自分の悪良き相棒達に声を掛ける

「おい! 臨時収入があったんなら……」
と 数歩彼らに歩み寄ったとき 破魔法使いの口から声が漏れる

「おっ お前ら! むっ 胸に穴が!!」
だが 相棒達は 返事はしない そこにいるのは 心の蔵 ひいては 生霊 を引き裂かれた 肉塊 でしかなかった

「つまり手前等 僵屍ズンビィかよ!」
その僵屍達は 破魔法使いに掴みかかろうとでも企てたのか 破魔法使いの前に両手を翳した しかして 破魔法使いは躊躇なく 詠唱に入っていた

『古式閃光戟!』
その瞬間 破魔法使いの杖の先から光弾が迸り 一瞬にして哀れな相棒達の体は飛ばされ焼き焦げていく
破魔法使いはその悪臭に顔をしかめながら唸る

破魔法使い「フゥー……何が起こったっていうんだよ……」
すると 間を置かず茂みの向こうより声が掛かった
???「起こったのは 悪夢 だ」

破魔法使いは 発光範囲に届いてなくとも 何かいるのが解った 茂みの向こうにはなにやら 朧ろげな 鬼火精霊ウィスプ が漂っていたからである

破魔法使い「誰だ!!」
???「俺だ」
破魔法使い「だから誰だ!!」
???「安心しろ 敵だ」
破魔法使い「くっ 馬鹿にしゃがって!!『凍てつく氷霊供 ここに集いて 奴 を元の世界にかえせ』」

破魔法使いの口より通常の会話と異なる言語 精言霊が発せられた(因みに古妖精語破魔法は大昔の会話語)
七体の氷霊 即ち 氷の塊 と化したものは その怪しき鬼火を包み込み蒸発させた
かに見えた
氷の牙は影まで能わず 鬼火の周囲数米前で 全てが消えてしまったのである

破魔法使い「こ これは『古式耐霊幕』……いや違う星霊カミの招来『空帝於無縁聖域』か!?」
???「ほぅ 門前の見習い 習らわぬ福詞を読む か……これは 太古の円環星霊域 ちょっと 縮小バージョン 是を知るものは もはや不死の命を持つ者だけか 貴様の氣量如きでは会得出来まい……」
破魔法使い「……お前はいったい誰なんだ……」

答の変わりに 彼が聞いたことのない言語が聞こえていた いや 聞こえたというよりは 脳髄 そして 魂體全体 を揺さぶる志念波動アルンワースが 直射 されたといったほうが正しかった

【我の名と天地アララ
陰の理を以て 定理を歪め 陽の理を以て 処歳に放たば
我は 我としての意志を示さん
霊魂束ねる 四大の精密よ
当地こそ 魔性 自由なる 聖地 古の盟約を忘れ躍り狂え】

その瞬間 鬼火は微かに揺れ 破魔法使い 無音にして 無意識 に感じることのできる
世を治める支配の旋律が 空間を駆け抜け 破魔法使いの手前でスッと消える

破魔法使いの外見 すなわち 土 の産物たる肉体(内部も含む)にはなんら変わりはない

ただ 精霊にも意志があり 生き物の魂の中にも感情を司る精霊達 生霊 が存在するが
その許容を超す衝撃を加えられると 精霊達は絶えきれず体外へ去り 体内は精霊の希薄 すなわち感情の薄弱 という状態になる

が 意識の担い手である魂の依り処 三霊蔵(眉霊蔵・心霊蔵・卵種霊蔵)が健在なら肉体つちくれを動かし続ける
すなわち 破魔法使いは  と化してしまった訳である
鬼火は その躯に冷笑を浮かべ語りかける

魔皇「我輩は 愛憎悪の権源 破魔 魔法の太祖にして大陸の覇者 魔皇 パピシャス
…ああ 済まんだ 少し紹介が遅れてしまったかな 
式道に集う わが遠き弟子よ ……まぁ貴様程度の安っぽい魂を取り込んで迄 崇高なるこの生命を育もうとは思わん
罪を背負ったまま一生を終え 輪廻の内に次世は良き再会をしようぞ……って!
オイラの宝珠はどこいっちゃったのかなぁぁぁ〜 この辺だったとは思うんだが うううっ……」



ここは林間の中にある小さな村里チュレ

シリアとその一味御一向は この村までの行商隊の警護の依頼を受け終え 茶店にて休息を取っているところである

シリア「いったいこのサングラスって どんな材質で出来ているの?」
ファーラムの露店で売っていた この日除け用具をはずし 改めて まじまじ と見つめ暫く考えていた
が やめた そもそもこの人間社会は 疑問だらけ この程度で悩んでいても 本当にしょうもないものである

シリアは視線を辺りに移すと 向こうのテラスに点々と居る喧しき者たち
そう 先の弁済後も いつのまにやら同行している アノ連中の行動を観察してみる

妖鼠は例のごとく 街頭販売を行っていたりもするが
先ずは 嫌でも目につく あの巨漢 リュークなる男 彼は天喰狼刀なる伝説の聖剣を求め 旅をしているそうだ

そして あの赤毛のリスティ 先ほどから通りを往来している 
娘さんを見る目つきは妖しいものがあり 時々見せる フッ と笑う仕草……

???「さっきからなにを一人でぶつぶつ言っているのだ」
危ないといえば こいつを忘れていた

シリア「……アンタも氣配を消すのはやめなさい」
いってシリアは ゆっくり と背後を振り向く
そこには黒き鎧に身を包んだ 色白の黒き長髪を 腰 までのばしている青年騎士が スゥ とたっていた

彼の名はウェーズ 妖怪退治の仕事を行っている最中 助太刀に入ってくれたのが切っ掛けで 現在も同行している
細く切れ長目の涼しげな男なのだが その瞳の奥で何を考えているのか まったく解らない とにかく妖しい男であるが
まぁ このメンバーの中では唯一 真っ当に物事を考えて行動してくれるので 彼の意見に何かと頼っているのだが
そのウェーズがボソリと シリアに呟くように声を掛けた

ウェーズ「……この村では 盗難事件がよく発生している 事件を解決してくれた者には 村長から百金貨の報酬が出る……」
早くも次の仕事の目処を嗅ぎ付けているのは 流石である
シリア「ふーん いい仕事じゃないの 乗った」
と言うとウェーズは クルリ と背を向け
ウェーズ「……村長と契約をとってくる 他の連中を集めてから酒宿で待ってろ」
と云って早足で向かう
素晴らしい 処断力マネージメントじゃないか……将来 出世するよ あいつ
シリア「ということ 異議無いわね みんなー」
シロタニ「まー 良ろしーのでは わての手先の器用さも必要になりまっしゃろ?」
と謎の妖鼠 シロタニ
リューク「そいつらは強いといいんだがな」
と剣を一振りしてアピールする リューク
リスティ「争い事になっても 御手柔らかにお願いしますよ」
と本当に嫌そうな顔をする リスティ
一同の足取りは 指定された冒鋒者酒宿へと向かった
そして3日後

リスティ「どうも ヒトの仕業に思えないのですけど」
シリア「ええ ヒトには生命の精氣が感じ取られるけど
あいつらにはそれがない……」
ウェーズ「樫娃オークス……だ」
リューク「なんだそれは妖豚オルクのことか?」
リスティ「傀儡クグツ……えーと、動く樫人形のことですよ リューク」
ウェーズ「他の動物にしては規律が良すぎる 同時間に 同動作 同行動が可能なもの そしてこの村は良質の樫の木が沢山育ち それが村の特産品だ」
シロタニ「(マル秘メモを身ながら)たしかにそうや」
リスティ「……なるほど貴方が思うには 犯人は『古式操樫娃』が呪術の使い手と読みますか……」
ウェーズ「ああ 今の所はそれぐらいしか憶測も出来ない」
リューク「そして 犯人はあまり頭が良くないな」
シリア「何故?」
リューク「襲った者のリストの中に 公園の噴水公衆便所 橋の下に住んでいる浮浪者 といったもの迄あるからだ」
シリア「きっと 趣味よ(きっぱり)」
リスティ「いえ それは犯人が 特定の場所に興味がるのかも 例えば 何か物を捜索しているとか…」
シリア「とにかく この街にそういう 妖しそうな破魔法使いが住んでいないか捜すのよ」
ウェーズ「確かな手がかりなしに そう簡単に見つかるとは思えん…」

見つかったりする
村外れにたった一人で住んでいる ホルスという人形師がいる
ウェーズはその老人にバレない様 人形達に『古式結印』を刻んでおいた

その夜……

樫娃オークスの集団と妖しき外套を纏った 主犯らしき小柄な男を発見
樫娃オークス達をリュークとリスティ組が追い シリアとウェーズ組は男を追う そして ただ「ドロボー ドロボーがでたぁ」と叫ぶシロタニ

シリア「とうとう行き止まりまで追いつめた……観念なさい」
小柄な男「……」
男はスゥと右腕を差し上げて 一言
小柄な男『如閃光律!』
光弾がシリアの頬を掠り 後ろの木に当って炎上する
少量の血が頬から流れた

シリアは交わしたのではない 男は態と外したのであった

こいつ 強い

シリア『閃光の乙精よ輪を集い撃て 照光縛臨!』
男は抵抗に能いて 変化は無し そして シリアが小柄な男の外套の裾から キラリ と光るなにかを捕らえた瞬間
???【破赤門より影を司れ 左鼎降斬剣!!】
という低く くぐもった 氣合いが放たれる が その閃光が目の前でフッと消える
そうあまりにも鋭い切っ先は 剣技においては未熟なシリアに到底 見切れるものではなかった

ウェーズ「!」

ガキキキィーン

ウェーズの一足飛びと同時に 彼とその男の剣がシリアの眼前で交差していた
ウェーズ【活青門より影の行司…右鼎昇流剣】
男は剣を引き 素早く飛びずさりながら 姿を消した が そのフードの僅かな隙間からは 微笑が零れていた様に見えた

シリア「あんたの 仲間?」
ウェーズ「……黯現クロウツツ流の門弟は六十といる 知らんな」
一方リューク リスティ組は一つの樫人形を捕獲 ホルスのであった

ホルス「なんぢゃ なんぢゃ 一体ワシが何をしたというのぢゃ」
リューク「問答無用 おとなしくしろ」
こうして事件は 一見落着した



シリア「おかしい……どうみてもあの老人が 剣法 を使うには見えないんだけど」
リスティ「いえ 見た目年齢というものに ダマされてはいけませんよ この世には三十歳を少し過ぎようかの年齢にして 各王国からの剣術指南役の称号を貰い渉り その威風と霊格は既に 生ける武仙 とまで謳われる
美髭の暗黯剣師と呼ばれる人もいますからねぇ ウェーズさん?」
ウェーズ「……」
後ろで剣を研いでいる リュークの動きが 一瞬 止まった

深夜のカウンターに一人 オレンジジュースを飲むリューク 突然 縦揺れが屋内を襲った が リュークは悠々とジョッキを口に運ぶ

二階からウェーズが大きな背負い袋を下げ 降りて来る が カウンターの方を見て 一瞬 動作が止まる
が 出入り口へと脚を向ける
リューク「まて 暗黯騎士ダークスナイト
ウェーズは足を止めたが 振り返らない
リューク「……奴に伝えろ 頂点の果てには 必ず お前に死合いにいくと」
ウェーズは無言で 扉の向こうへと消えていった

その朝 ウェーズの部屋には
 用があり失礼する 世話になった
と いう置き手紙があった

シリアとその御一行様は 坊市 に出かける なにげなく露店をからかっていると ふと シリアの目につくものがあった それはリュークの握り拳くらいはあろう(?) 直径30糎球の珠があった
露店のおじさん曰く

おじさん「今朝の地震で ひょこり こいつが掘り起こされたのじゃよ 波璃ビイドロ製じゃきに2800銀貨で手を打つよ……」
シリアが欲しそうな目でみていると シロタニがひょっこり出てきてわずか 三呼吸の交渉で 1150銀貨にまで値切る

シリアは無論 このお宝を手にいれた そしてその頭上にて この光景を見詰めていた
柿の木が上の 赤き目をした 一羽のカラスが飛び立っていた
一向は村を後に 出て暫く歩くと

謎の男「あいやまたれい そこの衆!!」
一同「?」
謎の男「我こそは魔皇アル=パピシャスその人なるぞ で 突然だが 宝珠は頂いていく」
といって手に オーブを『古式転移アポート』した
シロタニ「(汗タラリ)あの妖鼠の脳味噌で作る
妖鼠汁が好物というアノ……きゃー いやぁー」
といって 全速力で逃げていく
一同 ただ 亜然
魔皇「誰がそんな趣味の悪いものを……まっ いいや とりあえず『古式金網縛ブレードネット!』そのまま動くと命の保証はないぞ」
一同行動に出ようとすると 鋭利な網糸にて切り傷を生じる
たしかに ヤバイ
すると どこからか馬蹄の響く音

???「であえ であえ であえ であえ であえ であえ であえ であえ であえ であえ!! そこにぃ〜 あるのわぁ〜 魔皇である くあぁぁぁ!!」
魔皇「例の ファーラムの天晴戦士か……やばい 『古式瞬間移動!』」
???「だいじょうぶであったか」
シリア「とりあえずこの呪縛を……」
???「二分五十秒程 待たれい 自然に消える」
一同「……それはどうも」
???「我こそは 聖剣大帝の使徒 プラタニティ=タナカ=ブレイハルト=エリック男爵である」
と言いながら 全面兜を脱いだ
一同「プッハハ ギャハハハハハハハハハハハハハ!!!!」
毛虫の様な黒い眉下絵 書いたようなバカ面日の丸ホッペ 見事なまでの十銅貨ハゲ!
タナカ「こらー おまえらぁー 助けてやったのになんだ その態度は!!」
という事でこの徒党パーティに この聖戦士タナカを加えた

タナカ「……という訳で 魔皇と呼ばれる輩は この大地のオーブを大陸に落とし 十数年捜していたらしく
我輩も来たるべき決戦の為に 騎士修行をしている折 最近になって何やら怪しきあの人物が チュレ近辺を嗅ぎ回っているという情報を受け 今日にいたる訳だ」
シリア「……ということは」

ホルス「ぢゃから 無実ぢゃ と言うとろうに」

リスティ「おそらく ホルスさんの創った樫人形を あの外套ローブの集団 おそらく 魔皇が使徒の暗黒騎士が利用していたのでしょうね」


ここは別大陸 世に言う禁断の 西破壊大陸 ウエスト=ディストラクテス 暗黒神 ジョルグ=ルドラィアを崇拝する国 琥珀月皇国本拠 ビクトラウト城に
奇抜ないでたちと 不敵そうな面がまえをした青年が 同国 大将軍ウェーズ=ウェイブム=マクベリーの訪問に来ていた

ウェーズ「取り敢えずは 宝珠の収集計画は終ったようだな 黯現クロウツツ流 参番剣 義兄エグゼッフよ」
エグゼッフ「流石は十二歳にして 皇国の至宝と唄われる 龍の伸童
陛下の宝珠と あの連中との出会いを既に読んでいたとは」
ウェーズ「買い被るな……ただの偶然だ」
エグゼッフ「偶然か……まあいい これで 我が軍の力も増強する」
ウェーズ「エグゼッフ 俺は魔皇のために 己の手を汚しているのではない」
エグゼッフ「解っている……師が 俺達の手柄を何よりも 喜んでくれているさ」
ウェーズ=ウェイブムは窓際に立ち 暗雲の空を一別すると肩の紋章に手を当てる

少年には この紋章はあまりにも重すぎた
このときの顔は十二歳の少年のそれであった

少年はつぶやく様に言った

――そうか それならいいのだ  と

今 定刻さだめの火ぶたは 斬って落とされた




>>次が章ゑ



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